展覧会「ゴッホ展──響きあう魂 ヘレーネとフィンセント」が、東京都美術館にて、2021年9月18日(土)から12月12日(日)まで開催。その後、2021年12月23日(木)から2022年2月13日(日)まで福岡市美術館に、2022年2月23日(水・祝)から4月10日(日)まで名古屋市美術館に巡回予定だ。
「ひまわり」や「糸杉」などの作品で広く親しまれる画家、フィンセント・ファン・ゴッホ。展覧会「ゴッホ展──響きあう魂 ヘレーネとフィンセント」では、20世紀初頭にファン・ゴッホに魅了され、その世界最大の個人収集家となったヘレーネ・クレラー=ミュラーに焦点をあてる。
ファン・ゴッホがまだ評価の途上にあった20世紀初頭、ヘレーネは情熱的な創作活動を行った彼の芸術に深く魅了され、夫アントンとともに90点を超える油彩画と約180点の素描・版画を収集。また、自ら集めた質の高い作品群を惜しみなく公開し、美術館の設立によってファン・ゴッホの作品を継承したことによって、ファン・ゴッホの評価形成に重要な役割を果たした。
本展では、ヘレーネが初代館長を務めたオランダのクレラー=ミュラー美術館の所蔵作品を中心に、ファン・ゴッホ美術館からの出品作品4点も含め、ファン・ゴッホの絵画32点と素描・版画20点を一挙公開。ファン・ゴッホの初期から晩年までの画業をたどることができる。尚、一部作品は、ヘレーネと作品にまつわるエピソードとともに紹介される。
なかでも見所となるのは、「糸杉」をモチーフとした《夜のプロヴァンスの田舎道》。ファン・ゴッホが南仏サン=レミに滞在した時期に繰り返し描いてきた糸杉や星空といったモチーフを熟練させた南仏滞在の集大成といえる作品であり、来日するのは16年ぶりとなる。豊かな緑色をはじめとする力強い色彩表現の探求や、記憶や想像力を駆使した星月夜の描写などに注目だ。
また、ファン・ゴッホが油彩画制作を始めるよりも以前の、オランダ時代における人物素描作品では、養老院の男女をモデルに様々な様子を捉えた作品や、陰影を用いて表情にフォーカスした作品などが登場。悲しむ人や嘆く人といった題材や、《ジャガイモを食べる人々》をはじめ収穫や農民への関心も見て取れる。さらに、自然を擬人化しようと試みた《砂地の木の根》や、パースペクティヴ・フレームのグリッド線に基づく遠近法の実践が見られる《スヘーフェニンゲンの魚干し小屋》といった風景素描も残している。
ヘレーネが最初に手に入れたファン・ゴッホ作品《森のはずれ》はバルビゾン派を彷彿させる油彩画。また、暗めの色彩を用いた陰影によって農作物の重量感を描いた静物画《リンゴとカボチャのある静物》などを手がけたオランダ時代を経て、フランスに移り住むと、日本の浮世絵や新印象派からの影響が見受けられるようになる。
パリ時代の《レストランの内部》や《青い花瓶の花》には、明るい色使いや点描主義に近いタッチが用いられている。さらに、黄と青が力強いコントラストを織りなすアルル時代の《種まく人》や《黄色い家(通り)》などからは、ファン・ゴッホ独自の色彩の実践を目にすることができる。《レモンの籠と瓶》は、繊細な色使いが魅力。黄色いレモンとテーブルクロス、オレンジの色味の調和に注目だ。
南仏に移り住んでからのファン・ゴッホは、生き生きとした自然のモチーフからインスパイアされた作品を残しており、ファン・ゴッホの象徴的な画風が最も色濃く反映された作品の数々が登場する。ファン・ゴッホ自らが入った療養院の庭を描いた《サン=レミの療養院の庭》からは、豊かな自然に対する関心の強さがうかがえる。
また、《麦束のある月の出の風景》は、従来事実の観察に基づいて制作を行ってきたファン・ゴッホが、エミール・ベルナールやポール・ゴーガンといった友人たちから刺激を受け、記憶や想像力を用いて描き出した作品。刈り取った作物が束になっている様子と、月が顔を出す空が表情豊かに表現されている。