ドレスドアンドレスド(DRESSEDUNDRESSED)の2021年秋冬コレクションが発表された。
“Anosrep”──内側から見たpersona、あるいは鏡映しのpersona。今季は、心理学者ユングが“自己の外的側面”を指すために用いた「ペルソナ」をテーマに自己の外面と内面を思考した2021年春夏と、いわば鏡を挟むように対をなす。
この“鏡”にいったん留まってみても良かろう。なぜなら鏡とは、“見る”という内面と“見られる”という外面とが交わる、冷え冷えとした平面なのだから──「おお、鏡よ!/冷たい水よ、そなたを囲む縁のなか、倦怠によって 凍れる水よ(...)そなたの 畏るべき泉水のうちに/知ってしまった、散乱する我が夢の 裸形の姿を!」(ステファヌ・マラルメ「エロディアード──舞台」より)。
基調、そして起点となるのは、端正なフォルムに仕立てられたテーラードジャケットだ。なるほどシングルブレストのジャケットはぴんと張り詰めた佇まいでありながらも、その一方でともに合わせられたワイドシルエットのパンツは、力強くしなやかに波打っている。
端正なフォルムとしなやかな運動のこの結合とともにコレクションを特徴付けるのが、肉体を覆っては透かして見せる=魅せる官能性だ。繊細なレースを大胆に使用したスリップドレスやシアーな素材感のランジェリーは、静かに寄せては返す波打ち際さながらに、素肌を覆う/曝けだすのあいだに震えてやまない。
一方、比較的ロングな丈感のショールカラージャケットには、フィッシュネットやタイツを重ねる。普通ならば艶めかしい肉体の白さが覗くであろう大胆な網目の先には、屈強なフォルムと上品な光沢感が層を織りなしている。一方でアイレットを全体に散りばめたジャケットは、なるほど数多のホールがシャツの布地や素肌を覗かせるものの、そのダイナミックなサイズでもって鋭く光を返す鮮烈な表情が、ややもすれば強烈に過ぎるエロティシズムを屈折させている。
そして、凍った水面のように屈強なエレガンスを湛えるダブルブレストのチェスターコートやラップスカートには、裾に数多とフリンジを配して。ひとつには、緻密なネットと同様、繊細な作業を屈強なフォルムに接ぎ木する意識が窺えよう。他方で、静謐にして端正なフォルムを示すコートやスカートに対して、歩みに合わせて揺れ動くフリンジがダイナミックな運動性を印象付けている。
だとするならば、風を孕んで軽やかに揺らめくキュプラのローブは、運動とともに波打つはずの身体の表皮を、ドラスティックに可視化するようにすら思える。透け感のある生地は同色のペイズリー柄に緻密に覆い尽くされており、優美さのなかに眩くような不気味さが共存している。ふるえるような繊細さが、鋭い緊張を伴ってかたちを発露する。「石膏の皮膚をやぶる血の洪水/針の先で鏡を突き刺す さわやかなその腐臭」(清岡卓行「石膏」より)──鏡は砕け散り、肉体がもつ確かな肌理を、鮮やかなまでにこの手に感じるのである。
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