「アリス」の世界は、既成の社会規範への反抗を試みた1960年代のカウンターカルチャーや、サイケデリック文化にも受け入れられた。ドジソンが生みだした風変わりな物語やキャラクターは、変化を求めた当時の社会にマッチしたといえる。アメリカ人アーティストのジョゼフ・マクヒューがチェシャー猫を描いたポスターなどからは、サイケデリックに解釈された新しいアリス像にふれることができるだろう。
第4章では、舞台で展開された「アリス」の世界にフォーカス。「アリス」作品は、ダンス、音楽、演劇など、いわば舞台上に虚構の空間を組み立てる舞台芸術にも刺激を与えてきた。たとえば、2011年に初演されたロンドンのロイヤル・バレエ団の『不思議の国のアリス』では、原作をもとにオリジナルの物語を展開。会場では、ハートの形を強調したハートのクイーンの衣装などを展示している。
「アリス」作品において、アリスのアイデンティティは不確かだ。しゃべる生き物たちにあなたはだあれと聞かれても、この作品世界のなかで、アリスは明晰に自らを同定することができない。するとファッションという、不確かな自己や身体にある一定の輪郭を、あるいは社会的な位置を与えるものが、「アリス」に関心を抱くのはいわば自然だともいえる。
第5章では、「アリス」に着想を得たファッション作品を紹介。たとえばヴィヴィアン・ウエストウッド(Vivienne Westwood)は2015年春夏コレクションで、ヴィクトリア時代の女性の装いをフレッシュに再解釈。身体を堅苦しく覆うコルセットとクリノリンドレスは、そのシルエットを引き継ぎつつも、真っ赤なギンガムチェックのスカートとメタリックゴールドのミニドレス、アクティブな白スニーカーへと変奏されている。
あるいはヴィクター&ロルフ(VIKTOR & ROLF)は、ライトブルーのブレザー風ワンピースのなかに、シャツを幾層にも重ねて。ロリータ・ファッションブランドの「ベイビー・ザ・スターズ・シャイン・ブライト(BABY, THE STARS SHINE BRIGHT)」は、アリスの装いを甘く、ボリューミーにアレンジ。さらにイリス・ヴァン・ヘルペン(Iris Van Herpen)は2019年、アリスが穴に落ちて別の世界にたどり着くという物語を、現代物理学のブラックホールやワームホールへと接続。歩みに合わせて境界が曖昧にゆらめいてやまない、動きのあるドレスを製作している。
「特別展アリス ─へんてこりん、へんてこりんな世界─」
会期:2022年7月16日(土)〜10月10日(月・祝) 会期中無休
会場:森アーツセンターギャラリー
住所:東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー 52階
開館時間:10:00~20:00(月・火・水曜日は18:00まで)
※9月19日(月・祝)、10月10日(月・祝)は20:00まで
※最終入館はいずれも閉館30分前まで
観覧料:
・平日券=一般 2,100円、大学生・専門学校生 1,500円、高校生 1,300円、小中生 700円
・土日祝=一般 2,300円、大学生・専門学校生 1,700円、高校生 1,500円、小中生 900円
※事前予約制(日時指定券)を導入、ただし入場枠に余裕がある場合は当日会場での購入も可能
※未就学児は無料、日時指定券の購入不要
※障がい者手帳の所持者および付添者1名までは各料金の半額(会場3階チケットカウンターにて購入)
※チケットは、森アーツセンターギャラリー3階チケットカウンター、森アーツセンターギャラリーオンラインチケットページほかにて販売
※会期や開館時間などは変更となる可能性あり(来館前に展覧会公式サイトを確認のこと)
■巡回情報
・あべのハルカス美術館
会期:2022年12月10日(土)~2023年3月5日(日)
住所:大阪府大阪市阿倍野区阿倍野筋1-1-43 あべのハルカス 16階
【問い合わせ先】
TEL:050-5541-8600 (9:00〜20:00 / ハローダイヤル)