・なぜ、所作が重要だとお考えなのでしょうか?
中井:当時の人の所作には、“日本人の心の美しさ”が映し出されていると思うからです。そしてなにより、そこを疎かにしてしまうと、全てのリアリティが無くなってしまいますから。歴史のロマンに通ずるストーリー上のフィクションは良いと思うのですが、所作を疎かにして“嘘”を作るのは良くない。所作をはじめとする時代劇の「型」のようなものは、時代劇がどんな形に発展していくにせよ、そこだけは大切に守りたいんです。
・時代劇の「型」を大切にするとは、どのようなイメージなのでしょうか?
中井:まず大前提として、歌舞伎などの伝統芸能には、「型」というものが明確に存在するけれども、僕たちの商売には「型」というものがありません。ただ、時代劇を作るうえで脈々と受け継がれてきた基本の要素はあるわけです。もちろん「型」自体はどんどん破っていけばいいんだけれど、立ち戻ることができる基本があってこそだと思うんです。だからそれを受け継ぐのは大切なことです。北川さんや松山さんをはじめとする若手の役者さんたちにも、実体験をもって、この「型」を理解していってほしいなと思っています。
・明確な「型」が無いからこそ、撮影の中で、受け継いでいくことが重要なのですね。
中井:日本人の役者として時代劇に出るからには、「こういう形が美しいんだ」ということを、若手の役者さんの腹の中にも収めてもらいたい。
たとえば、袴を履いて帯を締め、刀を差して走る、という時代劇でよくあるシーン。どの程度の強さで帯をしめたら刀をホールドできるのか、その状態で走ると刀がどう動くのか。いまの現代走りをしたんでは、刀がふれるわけですから、走れません。それから、腰の位置はどこに置くのか、手はどこに当てて、どのように足を運べば、当時の人と同じように走れるのか…こういったことは、実際に体験してみないと分からないと思うんです。
そんな経験の場の一つに、この映画がなれば良いなーと考えたのも事実です。
・バトンを受け継ぐために、『大河への道』の現場では、具体的にどのようなことを行ったのでしょうか?
中井:現場にはプロの所作指導の方に入っていただき、指示を出してもらいました。
北川:現場では、いろいろなことを教えていただきました。実際に演じてみることで、所作の意図も分かって、日本の昔ながらの文化が持つ美しさ、素晴らしさというものに、改めて気づかされましたね。映画『大河への道』に限らず一般的な話に置き換えても、襖の開け方やお箸の取り方、お茶の受け方など、古くから受け継がれている所作には一つひとつ意味があって、そこから日本人の心の美しさを感じ取ることができます。
中井:僕は、日本人って、とても美しい人種だと思うんですよ。最近はいろんなことが海外の影響を受けているけれど、国際化という事を考えても、僕はもっともっと、日本人であることを大事にしていった方がいいと思う。たとえば、正座をしたままにじりよる、向きを変える、こういった動作一つとっても、日本人の所作というのはとても美しい。
・時代劇がどんな風に進化していっても、日本人の心の美しさ、そこからくる所作の美しさは、語り継がれるべきだと。
中井:そう思います。そこさえおさえていれば、時代劇がどんな形に発展していってもいいと、僕は考えています。偉人や史実を題材にしたストーリーにしても、チャンバラ活劇にしても同じことです。時代劇が、日本の真の美しさ、日本人としての心の在り方を再考するきっかけになればいいなと思います。
映画『大河への道』
公開日:2022年5月20日(金)
原作:立川志の輔「大河への道-伊能忠敬物語-」/漫画版:小学館
監督:中西健二
脚本:森下佳子
音楽:安川午朗
出演:中井貴一、松山ケンイチ、北川景子、岸井ゆきの、和田正人、田中美央、溝口琢矢、立川志の輔、西村まさ彦、平田満、草刈正雄、橋爪功
配給:松竹
<映画『大河への道』あらすじ>
現代→1821年〈初の日本地図完成〉→1818年〈伊能忠敬亡くなる〉!?
千葉県香取市役所では、観光促進として地元を盛り上げるために、“大河ドラマ”の開発プロジェクトが立ち上がる。主人公は伊能忠敬!そう、あの初めて日本地図を作ったことで有名な、郷土の偉人である。しかし、その脚本作りの最中に、ある驚くべき事実を発見してしまう。なんと伊能忠敬は、地図完成の3年前に亡くなっていたのだ!
「伊能忠敬はドラマにならない。地図を完成させてないんだ!」「え、じゃあ、誰が?」
舞台は江戸の下町へー。弟子たちに見守られ、伊能忠敬は日本地図の完成を見ることなく亡くなった。動かぬ師を囲んですすり泣く声が響く中、ある人物が意を決し発言する。
「では、今しばらく先生には、生きていていただきましょうか・・・」
忠敬の志を継いで地図を完成させるために、弟子たちによる一世一代の隠密作戦が動き出す。そこには、歴史に埋もれた、涙なしには語れない感動のドラマがあった。
【北川景子 衣装クレジット】
ワンピース パトゥ(IZA TEL:0120-135-015)165,000円
スタイリスト:宇都宮いく子
ヘアメイク:山口久勝