ヴェイン(VEIN)の2023年春夏コレクション「アンフォルメル(INFORMEL)」が、2022年7月12日(火)、東京の代々木第二体育館エントランスにて発表された。アタッチメント(ATTACHMENT)の2023年春夏との合同ショーとなる。
アグネス・マーティンの静謐なグリッド作品に誘われたのが今季のアタッチメントならば、同時に発表されたヴェインは、激しい表現性を示しているといえる。着想源となったのはジャン・フォートリエ──アンフォルメル、すなわち戦後期にかけてヨーロッパで興った抽象絵画潮流の先駆的存在とされるフランス人の美術家である。
フォートリエの代表的な作品として知られるのが、「人質」である。これは、第二次世界大戦期に開始された絵画連作であり、ナチス占領下のパリで画家自身がドイツ軍に追われる極限状況下で手がけられた。厚塗りの絵具による不定形の絵画は、しかし、対象を純化するベクトルであるというよりもむしろ、いわば壁に投げつけたスポンジの染みからイメージが立ち現れるように、混沌としたなかからある種の形象が現出するものである。
不定形から立ち現れる形象──それはすぐれて、ヴェインを特徴付けるものだといえる。MA-1やライダースジャケットはフロントのファスナーを2本にアレンジし、開け閉めによってフォルムに遊びを効かせられる構造に。ノーカラージャケットやカーディガンにはスリットを入れ、インナーパーツとの交錯が際立たせて。そのレイヤー構造こそ多層的で複雑だが、そこから立ち上がるのは、明晰に身体を包む衣服の形である。
ディテールにもまた、形が立ち上がる手前が留めおかれているように思われる。生地を切断・再構築したデニムシャツやパンツの荒々しいほつれ、オープンカラーシャツやトップスに用いたフリンジのゆらめき、ところどころに甘い編み方を織り交ぜたニット。あるいは、まだらに染まる模様のように、不定形はグラフィックにも反映されている。
コレクションを構成するカラーは、ブラックやグレーから、ブラックやグリーンを基調とした掠れるような模様、オレンジやグレーにまだらに染まる曖昧さ、そしてクリーンなホワイトへ──それらは混沌に形象を見出すかのごとく選ばれているといえる。