アンリアレイジ(ANREALAGE)から、新メンズブランド「アンリアレイジ オム(anrealage homme)」がデビュー。2024年秋冬コレクションが、2024年3月16日(土)、東京のテレコムセンタービルにて発表された。
2023年にブランド創設から20年となったアンリアレイジから、メンズブランド「アンリアレイジ オム」がスタート。ひとつのテーマを突き詰め、未来的・実験的ともいえるコレクションを展開するアンリアレイジに対して、アンリアレイジ オムは、むしろ自身の服作りの原点に、欲求に目を向けた服作りを試みてゆくという。
服作りの原点──それを象徴するのが、粛々と紡がれる手仕事ではなかろうか。リラクシングなシルエットに仕立てたテーラードジャケットやハーフパンツには、前面にボタンがあしらわれる。手間を要する、ひたむきなクチュールによって仕上げられたジャケットやパンツは、その装飾がもたらす迫力はさることながら、歩みに合わせてさらさらと鳴り響くボタンの音、表情を変えてやまない光の反射を引き起こす。
ここで、ふと思い出す。つい先刻、文化学園服飾博物館で、世界各国の装いに見られる、魔除けや招福の役割に着目した展覧会だ。人々がかつて科学の知識を持たなかった時代、病気や不幸は、目には見えない「魔」によって引き起こされるとされていた。こうしたなか、外界と人とを隔てる衣服こそ、「魔」を追い払い、「福」を招き寄せる役割を担ったという。
「魔」を払い除ける要素として挙げられていたのが、音と光であった。人々は、音を鳴らす鈴、光を反射する小さな鏡を衣服にあしらうことで、「魔」を遠ざけようとした。翻って、アンリアレイジ オムに目を向ければ、上述のボタンしかり、スタジャンのクリスタルしかり、音や光の効果をもたらす装飾を見て取ることができる。
だから、何か「魔」を追い払うのだ、とまで言うつもりはない。けれども、衣服に「祈り」を込めるという点で、それらは互いに似ていて、アンリアレイジ オムではその「祈り」の方法が、ひたむきな手仕事であるように思われるのだ。ダッフルコートやスタジャンなど、さまざまなアイテムをニットで表現するなど、アンリアレイジ オムがある種の素朴さを放っているのならば、それは「祈り」と呼びうるほどの手仕事への信頼と執着がそこに宿っているからにほかならない。
だから、アンリアレイジと共通する手法が見られても、その意味は大きく異なる。パッチワークはその例だ。フェアアイル柄やノルディック柄のファブリックを組み合わせたパファージャケット、色とりどりのMA-1、ニットパッチを繋ぎ合わせたケープなど、異質な素材を組み合わせてウェアを構築するという方法は同じであるものの、そこにはあくまで、手作業に宿る温もりが感じられるのである。