聖務日課とは、修道院や教会の典礼の基本をなす礼拝であり、日々8回、決まった時刻に行われる。その祈りで唱えるテキストを収録した書物が、聖務日課書だ。聖務日課書は、基本的には礼拝の進行を担当する司祭が用いるものではあるが、徐々に一般の信徒にも普及していった。たとえば、繊細で華やかな装飾を施した『レオネッロ・デステの聖務日課書』の零葉は、一般の信徒のために制作された、贅沢な作例である。
聖務日課ではまた、聖務日課聖歌集や典礼用詩編集なども用いられた。これらは集団で参照されたため、大きな判型を持ち、テキスト、楽譜、イニシャル装飾も大きく記されている。しばしば余白の装飾も華やかに施されるなど、大きな判型を活かしたレイアウトをとった。いわば、視覚的に訴えかけるものであったといえる。
聖務日課書、聖歌集、典礼集といった写本は、主に聖職者が用いるという意味で、公的な性格を持つ書物であった。しかし徐々に、一般の信徒が使う、私的な写本が生まれるようになった。たとえば、時祷書だ。
都市が発達しつつあった当時は、大きな街では大聖堂の改修や造営が始まる時代であった。こうしたなか、一般の信徒を中心とする世俗的な人々が日常的に信仰の実践を行うため、祈りの言葉を収録した個人用の祈祷書が求められるようになったのだ。これが時祷書であり、その内容も、聖務日課書を簡略化したものであった。
時祷書は、個人が所有するものであるため、一般に判型は小型化する。これは、大人数で見るために大型化した聖務日課聖歌集とは、正反対であるといえる。また、聖母マリアに関連する図像が多くなる点も特徴だ。
本展ではこのように、写本という書物の機能に着目しつつ、聖書、詩編集、時祷書など、その役割と装飾の特徴を紹介している。中世ヨーロッパの人々の世界観が表現された、彩飾写本の「小宇宙」に触れてみてほしい。
企画展「内藤コレクション 写本 — いとも優雅なる中世の小宇宙」
会期:2024年6月11日(火)〜8月25日(日) 会期中に一部作品の展示替えあり
会場:国立西洋美術館 企画展示室
住所:東京都台東区上野公園7-7
開館時間:9:30~17:30(金・土曜日は20:00閉館)
※入館はいずれも閉館30分前まで
休館日:月曜日(7月15日(月・祝)、8月12日(月・振)・13日(火)は開館)、7月16日(火)
観覧料:一般 1,700円、大学生 1,300円、高校生 1,000円、中学生以下 無料
※心身障害者および付添者1名は無料
※大学生、高校生、無料観覧対象者は、入館時に学生証、年齢の確認できるもの、障害者手帳を要提示
※観覧当日にかぎり、本展観覧券で常設展も観覧可
■同時期開催
小企画展「西洋版画を視る—リトグラフ:石版からひろがるイメージ」
会期:2024年6月11日(火)〜9月1日(日)
会場:新館 版画素描展示室
■巡回情報
・北海道会場
住所:2024年9月7日(土)〜9月29日(日)
会場:札幌芸術の森美術館(北海道札幌市南区芸術の森2-75)
【問い合わせ先】
TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)