ミニアチュールとは、写本の挿絵だ。ページの中で独立したスペースが割り当てられるミニアチュールは、ページの一部として描かれることがあれば、ページ全体に描かれることもある。本展でも、これら両者の作例を目にすることができる。
イニシャル装飾やミニアチュールなど、彩飾写本の図像は、現代の人々が慣れ親しんでいる写実的な表現とは異なっている。つまり、人物は平面的で、建物は遠近法に従わず、描かれたモチーフの前後関係が確かではないこともしばしばである。このように空間を合理的に把握することから離れることで、人々の日常空間とは異なる神の霊的な世界を表現しようとしたのかもしれない。
テキストと装飾から構成される彩飾写本は、文字によって文章を表す側面と、絵画によって空間を表現するという側面をあわせ持っている。つまり、互いに相反する要素をひとつのページの中にあらわす必要があったのだ。このように、文字と図像の共存から生まれる緊張に、彩飾写本の大きな特徴があるように思われる。
写本は、まずもって書物である。神が超越的な存在であるとされていた中世のヨーロッパにおいて、神をめぐる思考を通して、人々のコミュニケーションのあり方が規定されていた。こうしたなか、書物というメディアにテキストや図像をあらわすことで、自らがイメージする世界観を表現し、人々に伝えようとしたのだ。
写本の装飾で幾つか例を見たように、彩飾写本に表された図像は時として、テキストの内容に関連する主題にまつわるものであった。図像は、単に言葉を図解するものであるばかりでなく、書物の読み手に対して、神の言葉や奇跡、そしてこれらをめぐる解釈を思い起こさせるものであったのである。
そもそも、書物は高価なものであった。写本の素材には、羊や子牛などの動物の皮を薄く加工して作った紙「羊皮紙」が用いられている。人の手でテキストを筆写し、凝った図像表現を施すには、膨大な時間と労力を要することが想像されよう。
このように贅沢な彩飾写本は、一見、清貧や無所有を理想とする厳しい姿勢とは相反するように思われるかもしれない。しかし、神の超越性を示すために、熟練した技術を要する表現を書物に施したのだといえる。
写本は書物であるため、それが用いられる場面、手にする人々に応じて、形態や装飾に特徴があった。その具体例として、聖務日課のための写本や時祷書を取り上げよう。