2024年11月1日(金)公開の映画『十一人の賊軍』にて、W主演を務める山田孝之と仲野太賀へインタビュー。
映画『⼗⼀⼈の賊軍』は、脚本家・笠原和夫が1964年に執筆した“幻のプロット”をベースに、1868年の戊辰戦争中で起きた歴史的事件を背景に、藩のために命をかけて砦を守らなければならない罪⼈たちの葛藤を描き出す物語。
舞台となるのは、現在の新潟県新発⽥市に位置していた新発⽥(しばた)藩だ。明治維新の中で起きた旧幕府軍(賊軍)と新政府軍(官軍)の争いに11⼈の罪⼈たちが巻き込まれ、“新発⽥藩を守るための決死隊”として戦いの最前線に送り込まれる。
映画公開に先駆け、ともに命がけの死闘を繰り広げた罪人・政役の山田孝之と、藩の名士・兵士郎を演じた仲野太賀へのインタビューを実施。W主演で挑む時代劇への意気込みから撮影現場の裏話、めざましい活躍を続ける2人の演技論や揺るがないポリシーまでを伺った。“事務所の先輩後輩”である2人の仲睦まじい掛け合いを、ぜひ一読してみてほしい。
仲野さんは、山田さんに憧れて芸能界へ入られたそうですね。今回はそんな山田さんとW主演ということで、意気込みはいかがでしたか?
仲野:本当に感慨深いものがありました。これまでも何度か共演させていただいたことはあったし、同じ事務所でお世話になっているのですが、自分が小学生の時に孝之さんの作品を見て、俳優になりたい!と思ったので、こうして肩を並べて芝居ができることが、とても嬉しかったです。なおかつ、白石監督と孝之さんの『凶悪』ペアとご一緒できるというのも、すごく興奮しましたね。
山田さんは、白石監督と『凶悪』以来のタッグとなりますが、オファー時の心境をお聞かせください。
山田:そうですね。過去にご一緒した監督からもう1回オファーをいただけるのは、すごくありがたいことです。11年ぶりの白石監督の作品、しかも太賀とできるっていうことで、僕自身も楽しみでした。
白石監督には、どのような印象をお持ちですか?
山田:『凶悪』も『十一人の賊軍』も、辛い記憶しかないです。(笑)特に僕が演じた政は人間扱いされない設定なので、身体的に相当苦しい撮影になるだろうな…と覚悟していました。総じてやりがいのある現場でした。
爆破シーンや殺陣で戦うシーンなど、迫力満点で拝見させていただきましたが、具体的におふたりが印象に残っている場面を教えてください。
仲野 :パッと思いついたのは、雨降らしのシーンです。大きな機械で風を吹かしながら雨を降らして、数日間かけて撮ったので、ずっと全身水浸しで本当に辛くて…。(笑)それぐらい突き詰めてやらないと撮れるものも撮れないから仕方ないのですが、過酷に過酷を極めて…印象に残ってますね。
山田:僕は、油を掘り当てるシーンですかね。油をバーッと顔から被ったのですが、絵の具と墨汁を混ぜたニオイがすっごい臭くて。(笑)それを被ったら、その後のシーンとの繋がりがあるので、ずっと臭いままなんですよ。僕が着てる服というか、服じゃなくて、マットなんですけど…。(笑)
えー!(笑)
仲野:本当にマットなんですよ。
山田:僕の衣装、上はマットを切って羽織って、下はふんどしのみなんですよ。特にマットは着るものではないので、暑いしかゆいし…もう本当に罪人として扱われている気分になりました。(笑)
仲野:もちろん覚悟のうえで撮影に臨んでいましたが、いざその日が来た時には、こんなに辛いんだって。(笑)当時の戦って信じられないくらい大変なんだったんだろうな、泥まみれで戦っていたんだなっていうことを実感しながら、がむしゃらに演じていましたね。
山田:太賀が言う通りですね。爆破シーンなんかは、距離をとってしっかり段取りもするから大丈夫なんですが、1番危ないのは立ち回り。本物の刀ではなくとも、本気でやってたら刺さるし、切れる。こっち斬ったらこっち振り返って、こっち避けてっていうのが何十手も決まっていて一気に撮るので、 1人のタイミングが0.1秒遅れたら、 十五手先では1秒のズレになったりしてるわけです。その1秒で刀がバンって顔にくる危険性もあるから…。
仲野:ずっと緊張感が続いていましたよね。僕は殺陣自体初めて挑戦したので、半年くらい稽古を重ねて、なんとか習得できたという感じで。本番は怖いし痛いし暑いし…ヒイヒイしながら撮影していました。
山田:僕は逃げる方が多かったから、見ていて“太賀いいねー”って思ってたよ。
仲野:嬉しい!ありがとうございます!
僕、孝之さんについてどうしても話したいことがあって。今回の撮影場所は、都内から片道1時間半程度離れた場所で通いだったんですが、孝之さんが俳優部のために、現場近くに合宿所みたいな場所を借りてくださって、そこにみんなで寝泊まりしながら現場に通いました。座長として、精神的にも肉体的にもフォローしてくださる姿を間近で見ることができたのもそうですし、俳優部の空気を完璧に作ってくださって、心から感謝しています。僕ももっと頑張んなきゃダメだなって改めて思いました…!
次に、演技のお話を伺いたいです。集団抗争時代劇という、現代とは離れた設定の『十一人の賊軍』に参加してみて、何を感じられましたか?
山田:実際自分たちが演じるときって、その役として生きるので、時代は関係ないんですよね。身につけるものや言葉が違ったりはしますが、結局いつの時代も起きてることは同じだと感じました。権力を持っている人たちが、自分たちの考えで国を良くするために動き始めることで、使われる側の人たちが犠牲になっていく…。それは生きることの美しさでもあり、醜さでもあり、“生に執着している姿”っていうのを見せる作品だなと思っています。政で言うと、とにかく生きる。妻の元へ帰る。それだけを意識して演じていました。
仲野:現代劇ではなかなか経験することのない、気持ちの振れ幅がありました。生きることへの執着を自分の体で表現していくことの過酷さというか…たとえば、斬ることも斬られることも自分の実感としてはない。けれども集団抗争時代劇では、それを自分の身を削りながらアプローチしていくので、身体的にも精神的にも激しく揺れ動きました。そして今の時代も世界では紛争が起こっていて、決して遠すぎる世界でもないのかなと。“時代は関係ない”と感じましたね。
いつの時代も、命や家族、自分の信念など大切にすべきものは変わらないですよね。政と兵士郎を演じるうえで、意識されていたことは何ですか?
山田:僕はもう妻を守りたい一心。自分が生き残って帰らないことには妻を守れないので、何を言われようとも、“妻の元へ帰る”ってことしか考えてない。他の人や官軍なんて、どうでもよかったですね。
仲野 :兵士郎は、物語の始まりと終わりで、180度立ち回りが変わっていきます。抗争が続いていく中、おそらく兵士郎が信じているもの自体が揺らいでいく。彼の気持ちの移ろいや、にじみ出る人間味は大事に演じたいなと思っていました。
普段の役作りでは、どういったことを考えられているのでしょう?
山田 : 1番は、とにかくその人のことを考える時間を長くする。撮影期間中って基本的に自分のことを考える時間ってほぼないんですよ。寝てる時間以外は、ずっと役のこと考える。この人だったら何食べるかなとか、どんなふうに人に接するかなとか、楽しみながら役作りしてます。
仲野 :役によりますが、自分はわりと等身大な役を演じることも多いので…役との対話をすごく大事にしていますね。その時、どんなことを考えて、どんな風に過ごして、何が聞こえて…など、“五感”で感じるように役を作ることが多いです。もちろん、映画もドラマも舞台もフィクションで、 自分から発するセリフは本当の自分から出る言葉ではないけれど、役に対して嘘がないようにしたい。フィクションの中にリアルを探して、演じるようにしています。