俳優・山田孝之が、全編“動く油絵”で構成された新作映画『ゴッホ〜最期の手紙〜』で日本語吹き替え版に挑む。映画・TV・CMと引っ張りだこの人気俳優が演じるのは、天才画家フィンセント・ファン・ゴッホの死の真相を探る、青年アルマン・ルーラン役だ。
山田は『WATER BOYS』でTVドラマデビュー、その後『電車男』で内気な少年役で映画初主演を果たし、『白夜行』『世界の中心で、愛をさけぶ』とヒットドラマに次々と出演。2007年人気漫画を実写映画化した『クローズZERO』が転機となり、以降はシリアス、ハードボイルド、さらには歴史上人物など様々な役柄を演じている。
近年は、俳優業の枠を飛び越え、アニメーション映画『DCスーパーヒーローズvs鷹の爪団』やゲーム「ドラゴンクエストヒーローズII 双子の王と予言の終わり」などで声優を担当。自身を題材にした『映画 山田孝之3D』の出演や映画『デイアンドナイト』のプロデュースなど、同世代の俳優たちとは一線を引いた幅広い活動を行い、出演CMではコミカルな姿も見せている。
Q.デビュー当時もっと爽やかでしたよね?
それよく言われるんですけど、10代の時から全く爽やかじゃないですよ。よく見てください。グーグルで画像を検索してみるとわかりますけど、髪型とか髭とかビジュアル的な部分はともかく、目を見てください。相当にくすんでますし、屈折している人間の目をしています。
Q.(笑)デビュー時から心境も変化はしていないんですか。
変わっていないことはないですね。10代後半から、特に20代にかけての10年間は、今振り返ると、相当我慢したりとか抑えたりしている部分が多かったなって思います。本来の自分と違うというか…。
鹿児島の田舎で育った人間なので、東京に出てくるというだけでも相当な変化で、まして芸能界に入るっていうことで、めちゃくちゃ大きな変化があった。僕がいるのは、自分を出せない、出しちゃいけないという特殊な仕事ですから、もちろん押さえつけられる部分もありましたしね。
Q.本来の自分って何ですか?
今です、今。あまのじゃくでとにかくイタズラ好き。最近30代に突入して気付いたのは、小学生の時と根本は何も変わっていないなってこと。小学生の頃から、家の庭に落とし穴掘ったりするほどやんちゃで。振り返って自分なりに分析すると、両親が共働きで全然家にいなくて、姉ちゃんたちも思春期になると、学校の友達と遊んでばっかりで家に帰る時間が遅くなる。そういった孤独からいたずらしていたんでしょうね。
そんな山田の最新作となるのが、2017年11月3日(金・祝)公開となる映画『ゴッホ〜最期の手紙〜』。天才画家フィンセント・ファン・ゴッホにまつわるアニメーション作品で、山田は青年・アルマンの日本語吹替を担当した。
Q. 『ゴッホ〜最期の手紙〜』拝見しました。通常の芝居とは違い、声だけでキャラクターを作るのは難しそうですね。どんなステップで役作りをするのでしょう。
(演じる役)それぞれ違います。ガチガチのアニメやゲームだったら、抑揚を付けたり、声も作っても割と馴染む。ただ、役者が演技をしているものに同じようにあてると、どうしても不自然になるんですよね。日本の観客は(抑揚のあるものに)慣れているだけで、本当は不自然なのでは?という矛盾もあって、そこのバランスがすごく難しい。
Q.芝居と共通する部分はありますか。
実は、芝居をする時も同じです。会社員や学生だとか、普通の人たちの日常を描いた作品だと、声に変化を付けると違和感を感じてしまう。逆に、僕が演じてきた『闇金ウシジマくん』シリーズのように、漫画原作がある作品や、キャラクターがすごく立っているもの、SF作品だと、割と抑揚をつけたり、特徴的な喋り方をつけても成立したりするんです。
Q.アクションや表情に関しては、計算して作られていますか。
計算というより、考える、理解するっていうことですね、その人がどういう人間であるかを。声の大きさや、どれくらい相手の目を見るか?こういった全てに「こういう人間だから」という理由が出てくるんです。
それに、このシーンで何を相手に伝えたいのか?本当にそれを思って言っているかも大切。計算というよりは考えないと。人ですからね、そう簡単に演じることは出来ません。
Q.山田孝之さんが出演した『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』では、表情、アクション全てが狂気的でした。演じる時はどんなことを考えていましたか?
ジョジョの奇妙な冒険を演じた時は、(凶悪犯の役でしたので)視界に入っている人を“どうやって殺すか?”のパターンをずっと考えていました。
劇中で、一人でオムライスを食べるシーンと、岡田将生さん演じる虹村形兆とレストランで食事をするシーンがあるのですが、ここでもただ食べるわけではなくて、生物だったもの、言ってしまえば“死体を自分の体内にどう入れるか”という考えで向き合っていきましたね。
一人で食べていたオムライスも鶏の卵であって、お皿の鶏肉も、鶏を殺して焼いているわけです。それをどう捉えるか、どう体内に入れるか?鳥の死体を食べていると妄想したら、ああなりました。
これは台本にはありませんでしたが、最狂の凶悪犯・アンジェロ(片桐安十郎)の異常さ、何かに対するこだわりというのを見せたくて、自ら熱望して演じたんです。今振り返ると、もうちょっと面白くできたんじゃないかっていう反省点もあるんですけども。
Q.これまで様々の作品に出演されてきましたが、ご自身で演じる役を決めていますか。演じたいという気持ちは出していますか。
だって僕の人生ですから。しなきゃ。
例えば、10代、20代の頃は業界への知識もなく、物の作り方も理解していなく、コネクションも無い。もちろんスキルも無いですし、だから説得力もない。そういう段階の時は、頂いた役を必死にこなす。その中で、楽しんだり苦しんだりして、これはやりたい仕事だ、これはやりたくない仕事だ、というのを見極めながら成長していく時期だと思うんですよ。
今は、17~18年やってきた中で、さまざまな人と繋がって、知識もついてきて、人から認めて貰えるところも少しずつ増えてきた。もちろん成長ってずっと続くことなんですけども、今はやりたいことを伝える時期かなと。
Q.別の角度からも映画に携わっていますね。演者ではなく制作という立場から、どのように映画に向き合っているのでしょうか。
根本にあるのは、俳優としての考えです。俳優として17~18年やってきた中で思うこと、映画業界だけじゃなく芸能界も含めて、疑問点、納得いかないこと、改善すべきじゃないかっていうところに向き合う。何よりも後輩たちが芝居にだけ集中できる環境が出来たらいいなと思ってのことです。
Q.環境作りですか。
詳しくこれってことは言えないんですけど、全然ネガティブじゃなくて。昔から先陣きってやってきてくれていたプロデューサーの方たちに「なぜこれはこういうなっているんですか」って質問すると、「これはこういうことがあって」と、しがらみとかルールとかパワーバランスなんかを教えてくれてくれる。
それをぶっ壊そうなんてことは全く思いませんが、もうちょっと風通しよくできることもあるんじゃないかな、こうしたらちょっとは緩和されるんじゃないか、改善されるんじゃないかって思うことが多々あったんです。僕は今、一生自分を磨いて職人として俳優として死にたいみたいなことは思わない。それよりは、自分が思った疑問とかを減らして、後輩たちがのびのびと芝居する環境を作りたいと思っているんです。
Q.どんな作品を作っていきたいと考えていますか。
日本の俳優は芝居が下手だ、日本映画はつまらないって言われるのが悔しい。英語を覚えてハリウッドに挑戦っていうことも素晴らしいことだと思うんですけど、それよりは、じゃあ日本のモノの質を高めて世界から日本にお金を集めて、その映画を世界に向けて発信する方が僕はすごいことだと思う。そういう風に少しでもできないかな…とかなり大きな夢は持っています。
Q.“演じる”ことは、なぜそこまで山田孝之さんを惹きつけるのでしょうか。
“俳優“が好きなんです。これはやった人じゃないと分からないと思うのですが、次どんなオファーが来るかなって時から、全ての過程で楽しいんですよ。
オファーっていうのは、その時の僕のイメージや、影響力とかあってのことじゃないですか。イメージがあるからその通りのものが来たりもするし、イメージが出来すぎて作品が偏ってくる、少し違う一面が見たいとプロデューサーが挑戦的にオファーを出してくることもある。だから、実際に作品が来た時は「今これなんだ」っていう喜びがあって。
そこから、台本を読んでキャラクターを作っていく過程も楽しいし、現場に行って他の俳優たちと芝居をする、スタッフと共に作品を作っている時も楽しい。完成して観る時も楽しい。で、世に出てお客さんがどんな反応をしてくるかっていう時も楽しい。一連が全部楽しいんですよね。
Q.だから長く続けていられるんですね。
続けていられる理由がもう1つあって、今あげたような一連の流れの全てにストレスがかかっているから。どれも簡単じゃないんです。 “本当はこういう作品を”と願っているのに全然来ないとか、来たけどなかなかキャラクターが作れないとか。現場でこういう芝居がしたいのに、監督から演出で全然違うことを言われる。相手の俳優と全然芝居でのうまが合わない。完成した作品を見たら、すごい大事に思っていた部分を編集で切られている。
公開されたら、SNSで一般の人に、言ってしまえば“素人”にバンバンバッシングされる。苦労を何も知らないのに…とか思いがちですが、スポーツでも食事でもなんでも、プロを評価するのは素人。知らなくて当然なんです。
そんな全てに楽しさとストレスが同じくらいあるから続けられるんだと思います。
俳優・山田孝之(やまだたかゆき)。1983年10月20日、鹿児島県生まれ。
1999年ドラマ『サイコメトラーEIJI2』で俳優デビュー。『WATER BOYS』でTVドラマ初主演を果たすとともにヒット。その後『電車男』で映画初主演。以後、『白夜行』『世界の中心で、愛をさけぶ』などのTVドラマ、『クローズZERO』『テラフォーマーズ』『信長協奏曲』『バクマン。』などの映画作品に出演。2018年には映画『50回目のファーストキス』の公開を控えている。
インタビュー当日は、ヴィヴィアン・ウエストウッド マン(Vivienne Westwood MAN)のジャケット、チェックシャツ、パンツに、ミソグラフィー(mythography)のシューズをコーディネートしていた。
なお本作は、日本時間の1月23日(火)に発表された第90回アカデミー賞長編アニメ映画賞にノミネートされた。さらに、これまで2017年アヌシー国際アニメーション映画祭で観客賞を、2018年度ヨーロッパ映画に 賞で長編アニメーション賞も受賞している。
『ゴッホ〜最期の手紙〜』
公開日:2017年11月3日(金・祝)TOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国ロードショー
監督・脚本:ドロタ・コビエラ、ヒュー・ウェルチマン
出演:ダグラス・ブース、ロベルト・グラチーク、エレノア・トムリンソン、ジェロー ム・フリン、シアーシャ・ローナン、クリス・オダウド、ジョン・セッションズ、エイダン・ターナー、ヘレン・マックロリー
撮影監督:トリスタン・オリヴァー、ウカシュ・ジャル
音楽:クリント・マンセル
原題:LOVING VINCENT
■ストーリー
物語は、青年アルマンが郵便配達員である父ジョゼフから一通の手紙を受け取るところから始まる。ジョゼフは、ゴッホが弟・テオに宛てた手紙を長い間配達していたが、生前最後に送った手紙だけを渡せずにいた。手紙を託された青年アルマンは、テオを尋ねる旅を始める。ゴッホの知人と出会う度に考えるのは「37歳という若さで、彼はなぜ命を絶たなければならかったのか?彼は本当に自分の腹を銃で打ち自殺したのか?」という疑問。心を激しく揺さぶられたアルマンは、死の真相を知るために動き出す。
■展覧会「ゴッホ展 巡りゆく日本の夢」
※浮世絵をはじめ、日本美術に影響を受けたゴッホを多角的な視点で紐解く展示。
開催期間:2017年10月24日(火)~2018年1月8日(月・祝)
会場:東京都美術館
© Loving Vincent Sp. z o.o/ Loving Vincent ltd.