東京・銀座のメゾンエルメス8階フォーラムで開催中の「望郷―TOKIORE(I)MIX」。今最も注目される現代美術作家のひとりである山口晃が、東京の街を、過去、現在、未来、時が幾重にも重なった不思議な姿として浮かび上がらせる。
左写真) ©Nacása & Partners Inc. / Courtesy of Fondation d’entreprise Hermès
会場に入るとまず目に飛び込んでくるのは、大きな5本の電柱だ。電柱はすでにこれ自体がノスタルジーであり、この作品はそんな電柱の未来形を作るという試みであったと山口は語る。
男の子が落書きに描いたものをそのまま持ち上げたような感じにしたかったというこの電柱は、メカニックな輝きがどことなくいたずらっ子の表情を思い起こさせる。ガラスブロックの壁からは一日中光が差し込むため、夕方になると夕暮れの街の風景が幻想的かつノスタルジックに浮かび上がってくるのが印象的だ。
「仕掛け小屋」と呼ばれる作品では、来場者は実際にその中に入って作品を楽しむことができる。この作品を作ったきっかけについて、山口は幼少の頃の記憶に想いを馳せる。子どもの頃に行った豊島園の西洋おばけ館の仕掛け小屋のめくるめく感覚。床が斜めになっているだけで、どうしてあんなに不思議な感覚が得られるのか、子ども心にとても不思議だったという。この「仕掛け小屋」はもう一度味わいたいなつかしい感覚、ノスタルジックな想いの象徴でもあるのだ。
右写真) ©Nacása & Partners Inc. / Courtesy of Fondation d’entreprise Hermès
本展のタイトルでもある「望郷」という言葉について、「後ろ向きなイメージもあるが、"望"は『希望』の"望"であり、"望む"という意味を持つ。昔あったものを望んで作る、あの感動を再現したいということなのです」と山口は語る。
©Nacása & Partners Inc. / Courtesy of Fondation d’entreprise Hermès
オープニング前日、会場では、山口が自らの手で大きなキャンバスに東京を描いていた。アーティストの中でも特に雪舟が好きだと語る山口が描く東京は、雲の間から望む建物達が生き生きとした表情で画面を彩っている。「数日後に完成予定なので、楽しみにしていてください」と語る山口の顔には、過去への深い愛情と、未来への大きな期待が込められているようだった。
展覧会と同時に、メゾンエルメスのショーウィンドウも山口が手掛けている。タイトルは「みにくいアヒルの子」。2012年3月20日(火)までの展示なので、展覧会に足を運ぶ際はこちらもぜひお忘れなく。
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