肩や腕にすっと寄り添うスマートなライン、身体を包むようなゆとりをもった身頃部分で形成されるザ・リラクスのテーラードジャケットは、オーセンティックでありながら決して保守的ではなく、存在感が際立つアイテム。漂うのはクールな品格だ。
ジャケットに使用されているウールギャバジンを作った丹羽正は、生機の生産から加工の設計までを担う創業約130年の毛織会社。特に、ウールギャバジンの生産にかけては、国内はもちん海外のブランドから高く評価され、多くの有名ラグジュアリーブランドの生地を手掛けている。日本人デザイナーがパリコレに参加し注目を集めた1980年代から、デザイナーたちと新しい表現のための生地開発に取り組んできた。
テーラードジャケットだけでなく、スカートやベストなどザ・リラクスの様々なアイテムを形作るウールギャバジンについて、ザ・リラクスの倉橋と丹羽正の丹羽に話を聞いた。
丹羽正のウールギャバジンとどのように出会ったのでしょうか。
倉橋:初めてこの生地を触ったのは、テキスタイルの見本市でした。生地が好きなので、何万とある生地の見本を1枚1枚触っていく中で、最初に触った瞬間に、他の企業の生地とは明らかに違うとわかりました。ありがたいことにご縁があり、丹羽正とのお付き合いが始まりました。
服作りに使用した感想はいかがでしょうか?
倉橋:丹羽正の生地は、華やかというよりは無骨な印象ですが、洋服にした時にはエレガントになる。生地の状態で美しいものと製品になって美しいものは違うということを身をもって感じました。
丹羽正のウールギャバジンは、きらびやかというよりは静かで少し荒っぽいオーラを放つ。光沢感の中にも落ち着きを持っているのだ。服に仕立てられた時、ユニークな存在感を放つのは生地そのものが持つ空気感によるものだろう。
このウールギャバジンはどのような経緯で作られたのですか?
丹羽:1990年代中頃、日本人のあるデザイナーに、紙のような落ち感のウール生地が欲しいと依頼されました。色々なデザイナーの要望に応えて来たけど、この生地は最も作ることが楽しかった1枚。この生地のおかげで色々なデザイナーとの縁も広がりました。
この生地のオリジナリティはどこにありますか?
丹羽:張りの風合いを出すための含浸加工です。含浸加工というのは、生地を薬品に漬ける加工を指します。生地の経糸と緯糸が交差することによってできる隙間に、糊をつけてその隙間を埋めていくようなイメージで加工していく。薬品の効能によっても効果が変わります。
シャツの手触りを良くするのによく使われる手法ですが、ウール素材に適用したのは私達が最初だと思います。完成した生地を見て、デザイナーのインスピレーションを形にすることができたと思いました。
そのギャバジンを使ったコレクションが発表された後、何か反響はありましたか?
丹羽:コレクションのすぐ後に、海外から問い合わせが来てね。イタリアの伝統的な価値観で考えると、我々が作った生地は邪道なはずなのですが、パリの人たちからは面白いと思われたようです。海外輸出で最初に成功した生地になりました。
イタリアの伝統的な価値観とはどういうものでしょう?
丹羽:イタリアは世界的な毛織物産地で、500年の歴史があります。彼らの文化では、神の作った素材であるウールに、人間がそれを痛めつけるような加工するのは邪道だという考えがあったため、薬品でウールの質感を変えるなんて、当時の彼らには考えられなかったのでしょう。
あなた自身はウール生地を加工することに対して抵抗はなかったのですか?
丹羽:嫌ではありませんでしたよ。尾州の歴史はたった130年くらいですし、ヨーロッパの500年の歴史に勝つには頭を使わないといけませんから。デザイナーの求めることに応えるのは楽しかったし、作った生地がパリで面白いと思ってもらえることも嬉しかった。