ザ・リラクス(THE RERACS)は、テーラードジャケットやピーコートといった定番のアイテムを、厳選した上質な生地と端正なシルエットで現代的に再構築していくメイドインジャパンのブランドだ。クリエーションの原動力は「上質な生地」。
ザ・リラクスが作るテーラードジャケットやコートの生地となるウール生地は愛知の尾州地区で作られている。尾州地区と呼ばれる、愛知県名古屋市、一宮市、津島市から岐阜県羽島市にかけての一帯は、日本の毛織物の生産シェア約8割を誇る一大産地である。ウールのテキスタイルメーカーや整理加工工場が並び、日本のブランドは勿論のこと、海外メゾンから発注を受ける企業も多数存在する。
今回は、 デザイナーである倉橋直実に、 尾州地区を案内してもらい、生地の生産背景を取材。デザイナーが理想とする生地がどのように生み出され、進化していったのかを追った。
ザ・リラクスを始めようと思ったきっかけは“生地”だったそうですね。
倉橋:尾州産の、日本のマーケットにある服には使われていないような生地と出会ったことがきっかけ。あまりにもクオリティが高くて、衝撃を受けたんです。昔から品質の良い服に惹かれるので、上質な生地を見ると「こういうアイテムを作りたい」という発想に繋がっていきます。今でも最初に生地を決めてから、服作りが始まっていきます。
物作りのプロセスで生地選びに比重を置くことのメリットはありますか?
倉橋:生地を決めることに重きを置くと、服が完成していくまでの流れがスムーズ。生地、付属、パターン、デザインという服作りの4つのカテゴリーがあるとして、それらをどう掛け合わせていくか考える中で、私達としては、デザインありきで考えるよりも、生地を軸にアイテムを作る。その方が、それだけクリエーションの幅を広く保てるんです。
テキスタイルメーカーは生地作りにおいてどのような役割を果たしていますか?
倉橋:私達が「このような生地にしたい」とリクエストした内容を元に、生産工程を組んで形にしてくれるのがテキスタイルメーカー。メーカーが、組んだ工程をベースに、作業を進めたり工場さんに発注をかけたりして、洋服に使用する生地が出来上がります。
テキスタイルメーカーがウール生地を生産していく流れを教えてください。
倉橋:大きく2つに分けられ、羊毛から糸を引いて織り、生地のベースとなる生機(きばた)を作る段階と、その生機に染めや洗いといった加工を施し、生地として完成させていく段階があります。
具体的には、生機を作る段階ではどのような羊毛を使うか選ぶところから始まり、糸の本数や織り方なども作りたい生地に合わせて調整しながら作っていく。生機の段階で、生地の基本的な性質が決まります。
生機から生地が完成するまでの加工はどのようにして行われるのでしょうか。
倉橋:どのような生地を作るかによって、加工の中身は変動します。生機は、ただ糸を織っただけのものなので、手触りや質感、見た目を調整する必要があります。生機を染色したり、毛羽立ちを削ったり、生地の密度を高くするために圧力をかけたり、洗いにかけたりすることで、生地を完成させていきます。この一連の加工を、整理加工と呼びます。
尾州のテキスタイルメーカーとの取り組みを表す代表的なアイテムを教えてください。
倉橋: 2つのアイテムを紹介します。
1つは丹羽正のウールギャバジンを使ったテーラードジャケット。ギャバジンは、一般的にスーツに使われている生地です。
もう1つは森保のウールメルトン生地を使ったピーコート。メルトンは、冬物の厚手のコートによく使われるハリと厚みがあり、防寒性のある生地です。ザ・リラクスが使っているそれぞれの生地にはユニークな開発秘話があり、生産している方々の努力を感じて頂けるはず。
様々な定番アイテムを“着崩した時”でさえも綺麗に見えるように作り上げてきたザ・リラクス。今回は、2018年春夏コレクションにも登場するテーラードジャケットに焦点を当てる。
ザ・リラクスが考える理想のテーラードジャケットとは?
倉橋:私が描く理想は、デザインがシャープで、着る人の体型を包み込み、美しいシルエットを保つテーラードジャケットです。しなやかな生地の落ち感を表現しながら、身体を綺麗に見せるジャケットにするためには、形状記憶のように、ある程度の元の形を維持する力を持つ生地が理想的。丹羽正のウールギャバジンがまさに理想通りだったんです。