ザ・リラクスにとっての理想のコートとは?
倉橋:上質な生地を使っているのはもちろんですが、コートを形作る上で目指しているのは、誰が着ても身体が美しく見えること。着た人が立った時、動いた時に美しいように、誰が着ても同じフォルムが形成されるように作っています。
ザ・リラクスにとって、この素材はどのようなものでしょうか?
倉橋:「スーパー140's」ウールメルトンは、柔軟性もありつつ立体感のある造形に仕上げられる生地で、他にはない落ち着いた品格のようなものも漂っていると感じています。
このメルトンを用いたコートがブランドの飛躍のきっかけになりましたよね。
倉橋: 2012年秋冬シーズンに初めて、この「スーパー140's」 ウールメルトンの生地を使ってコートを作りました。その時に、単なる売上ということだけではなく、バイヤーさんやお客様が服を気に入ってくれた、という実感を得られた。その実感があって”このまま何とかブランドを続けていける”と思うことができたザ・リラクスにとっても思い入れのあるアイテムです。
「スーパー140's」のメルトン生地は作るのが難しい生地ですか?
森:ウール素材自体が生き物のように、加工時に様々な反応を示すので、その調整が難しい。特に「スーパー140's」素材は繊細なため、加工に対しての反応が変動しやすく、安定した質の生地を作るのが難しい素材です。
デザイナーと密接にものづくりを行うことは大変ですか?
森:デザイナーの意図を正確に理解して汲んでいくことは常に難しいですね。「もうちょっとハリ感が」のもうちょっと、がどういうニュアンスなのかをわかっていなければなりませんから。
反対に良い点は何でしょうか?
森:物作りをするにあたって、 求められるものが分かるようになるというのはやはり嬉しいです。デザイナーの要望に対して、創意工夫を凝らして、満足して頂けるような物を作っていくことは面白いですよ。私達としても、自分のところの商品を世に送り出したい、という情熱を持って取り組んでいますし、売れたと言われれば嬉しい。
森保さんは海外メゾンに選ばれ続けていますが、それはなぜでしょうか。
森: デザイナーの要望に応え、納期にも間に合う体制を取れていることでしょうね。私たちに、協力してくれる取引先との信頼関係と、物作りに対する納期、色合わせなど全ての基本となる要素を固めていった、蓄積によるものだと思います。
生地を作っていく中でやりがいを感じる瞬間はいつですか。
森:実際に店頭で売れたり、コレクションや展示会に商品が出て、その服を着たモデルが雑誌の表紙になった、とお客さんが喜んでいたりとか聞くと嬉しい。 そういうのがきっかけで、口コミで“この生地を作っているのは日本らしい”と広がって、うちの会社にアクセスしてくれた人もいます。機屋としては、規模は小さいなりとも、自分達が誇れるいい商品を作りたいです。
尾州地区の未来はどのようになっていくと思いますか。
森:正直、想像が付きません。1つ言えるのは、機屋や加工所が廃業するたびに、少しずつ技術が失われていることです。物作りの幅を減らさないような努力は常に必要だと考えています。ザ・リラクスさん達のように物作りに打ち込む人たちが増えていくと、産地が潤って設備投資や雇用を増やせるので、今後に期待したいところですね。
倉橋:デザイナーが創造性を持ち、メーカーに働きかけることで、これからも生地は進化していくはずなんです。生地の進化が表現の幅や選択肢を広げ、より多くの仕事と産地や生地メーカーを繋いでくれるはず。なかなか難しい側面もありますが、デザイナーも、メーカーも品質で勝負するプライドを持って、新しいことに挑んでいく姿勢を持ち続けられたらいいなと思います。
品質を誇る丹羽正と森保。ビジネスのやり方こそ異なるが、両者ともに物作りを追求する一貫した姿勢が見えた。生み出される生地のクオリティの高さは、物作りへの探求心や熱意に裏打ちされたものだったのだ。
丹羽正と森保、それぞれとお仕事を共にしてみていかがですか。
倉橋:双方に共通しているのは、デザイナーがやりたいことや期待することに応えようとする意識の高さ。おそらく“今デザイナーが求めていること”を追求していくのが楽しいと思ってくださっているんだと思います。どちらもデザイナーと密接に物作りに取り組み、当時の常識とは異なった方法で応えたことにより、新しい生地を開発した先駆者です。丹羽正は専門的に素材を突き詰めていくタイプで、森保は、時代ごとに器用に適応していっている印象を持っています。
ザ・リラクスと、丹羽正や森保は、商社や問屋を仲介せずに直でやり取りを行っている。丹羽正、森保はデザイナーの意図を正確に読み取り、生地に反映させていかなければならない。丹羽正は分析したデータに基づいて生地を提案し、森保は話し合いを重ねながらザ・リラクスが理想とする生地に仕上げていく。