“北海道が生んだスター”、大泉洋。彼は、大学生時代に演劇ユニット「TEAM NACS」の一員となり、その後、深夜番組「水曜どうでしょう」で一躍北海道の人気者に。拠点を東京へ移してからは、「救命病棟24時」で全国ネットの連続ドラマに初出演を果たし、NHK大河ドラマ「龍馬伝」、「真田丸」などに出演。数多くの人気作の常連となった。
映画での活躍も目まぐるしく、近年では『東京喰種 トーキョーグール』、『鋼の錬金術師』、そして最新作が2017年12月1日(金)に公開した「探偵シリーズ」に出演。特に、「探偵シリーズ」は彼にとっての出世作だ。シリーズ1作目『探偵はBARにいる』では、第35回日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞した。
「TEAM NACS」としての活動もデビューから変わらず、森崎博之や安田顕らとともに舞台公演も続けている。さらに声優業でもその実力を発揮し、これまで『千と千尋の神隠し』、『ハウルの動く城』などジブリ作品にも出演。その一方、バラエティで、芸人顔負けの面白さを見せていることも言わずと知れた事実だ。映画・ドラマ・声優・舞台・バラエティ……現在まさにジャンルを問わず活躍している。
大泉さんは、俳優という枠を超えて面白く、楽しいことが好きというイメージがあります。小さい頃からですか。
物心ついた時からですね。記憶のある限り、人を笑わせたいと思ってました。もちろん友達も笑わせたいけど、大人が笑ってくれることが好きだったのかな。子供の頃からモノマネしたりして、みんなに笑ってもらってましたよ。
お笑い芸人になろうとは考えなかったのですか。
僕が今、俳優をしているのは、おそらくただのラッキー。普通に就職して、普通の生活をするだろうと思っていたし、そんなことできるわけないと思ってました。自分が芸人になれるとか、俳優になれるだとか、そういう夢をもつ男じゃないんです。
演劇やってみたら面白かったし、テレビに出ることも面白かった。楽しい、面白いと思うことばかりやってるうちに、いつの間にかこうなった。役者になろうって固い決意をしたわけでもなく、僕はきっと珍しいケースなんです。
演劇をはじめるきっかけは何だったのですか。
大学に2浪してしまったのですが、年下の同級生とチャラチャラ何もしないで遊びっぱなしっていうのが嫌でした。何かやらなきゃなとなって考えついたのが、たまたま“演劇”だったんです。
そのとき、もし落研があれば落研に入って、お笑いの道もあったかもしれないけど、なかったんですよね。でも、演研に入った時もまだ俳優になろうなんて思ってなかったです。
本格的に芸能界に入ってからは、いかがでしょうか。
本格的にこの世界に入ったのは、鈴井貴之さんが運営してる劇団員の女優さんの目に留まって、鈴井さんを紹介されたことがきっかけ。その後は、コロコロ転がるみたいに話が進みました。テレビ番組でちょうど欠員が出たから、出てみようかってすんなり決まっちゃって。そこには“あの”水曜どうでしょうの藤村忠寿さんも居たんですよね。そして彼が僕のことを面白いと思ってくれて、僕がテレビに出始めて半年後くらい、『水曜どうでしょう』が始まる時に僕を誘ってくれました。
『水曜どうでしょう』は大泉さんの代表作ですね。かなり過酷なロケもされていたイメージです。
基本的に北海道の番組って、時間も余裕もないし、やってみないと分からないという中で始まる。実はあの人達(制作陣)も、最初からキツイって思っていることをさせるわけじゃない。
『水曜どうでしょう』では、あの人達(制作陣)が楽しいと思ったことをやってただけなんです。いつも「あれ?楽しいと思ってたけどきつかったね!」って感じ。だから余計腹立つんですよね(笑)。やる前からだいたい分かるだろって(笑)。
それに比べて、東京の番組って、作り込む番組が多いじゃないですか。その都度きちんと台本があって、何が起きるか分かった中で番組を作っていく。こうなるから面白いっていう確証があってからロケをするような。そこはローカルと作り方が違いますね。
そもそも、東京に来ようと思ったのはどのような理由だったのでしょうか。
10年近く北海道だけでバラエティばかりしている時に、なんとなく閉塞感がありました。テレビで4本、ラジオ3本くらいのすごい量の仕事をしてたその生活に、自分の中で少し飽きてたんでしょうね。だから、役者の仕事をちゃんとしたいと思うようになって。でも北海道に役者の仕事はないので、東京で役者の仕事もしようと思いたちました。
不安はありましたか。
ありました。でも、僕はなんとなく仕事だけはポジティブシンキングでして、その時僕が思っていた不安って、「東京でドンって売れちゃったら、あと戻りできないな」とか、「売れちゃったら北海道だけじゃなくて、東京でも歩きにくくなっちゃうな」とか。あの頃だと北海道以外では、誰にも知られてないから、どこでも歩けちゃってたし、そういうことが出来なくなっちゃうのが悲しいなあって心配してました。
なぜだか売れた後の心配しかしてないのね(笑)。
本当ですね(笑)。すごくポジティブな考えです。
僕の場合は特別だったかもしれないですね。北海道でしっかり築いたものがあったし、北海道を捨てて出たわけじゃないから安心感もありました。北海道の仕事は続けていく。でも、東京の仕事もやる。そんな境遇だったから、極端な話、東京で上手くいかなくても心配なくて、それよりも売れちゃった後の方が心配だなって(笑)。
でも、こういう漠然と良いイメージ持ってるのって、絶対大事なんだと思うんですよね。「なんか上手くいくんじゃない!?」というイメージ。
東京の仕事が増えて、変わったことはありましたか。
東京で出るバラエティと北海道の自分のレギュラーでは出方が全然違うかもしれません。北海道で見て下さってる方たちは、きっと東京で見る僕と北海道で見る僕を住み分けてるんじゃないでしょうか。
どのように住み分けられているのでしょう。
東京で番宣なんかで出る時は、誰かにつっこんでる事が多いかもしれないです(笑)。レギュラーでは、僕が「TEAM NACS」のメンバーや素人さん達をいじってる事が多いかな。東京では、僕がいじられる事が多いから必然的につっこむ事が多くなるんですよね(笑)。
『探偵はBARにいる3』でも、キレのいいつっこみがありましたね。
もちろんあれが素の僕ってわけじゃないけど、僕は“僕というキャラクター”が出ちゃうタイプの俳優じゃないかなとは思います。
俳優の仕事をされるにあたって、大切にされてることはありますか。
特に大切にしてることはないけど、とにかく楽しく仕事がしたいだけかな。現場の雰囲気がピリピリするのだけは嫌だから、いい雰囲気の中で仕事したい。子供の頃から変わらず、やっぱり人に笑ってもらえるのが嬉しいです。
その部分は変わらないのですね。
突き詰めると、結局そこなんだろうなって思います。映画なら、演じて出来上がったものを見てほしいし、その作品が面白いと言われることがやりがい。演じたいというよりは、演じたものを誰かに見てほしいという気持ちが強いです。
もし、作品は撮りますけど公開はされませんってなったら、お金もらってもやらないですもん。皆さんに見てもらって、おもしろかったって言ってもらいたくて俳優をしてるんですよね。
1973年4月3日生まれ、北海道出身。北海道発の深夜番組「水曜どうでしょう」(HTB/96~)でブレイク。演劇ユニット“TEAM NACS”に所属。シリーズ1作目『探偵はBARにいる』(11)では日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞、第35回日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞。主な映画出演作に『アフタースクール』(08)、『しあわせのパン』(12)、『晴天の霹靂』(14)、『アイアムアヒーロー』(16)、『東京喰種 トーキョーグール』(17)など。18年には、映画『恋は雨上がりのように』で小松菜奈とW主演、『映画ドラえもん のび太の宝島』で声優出演、そして“TEAM NACS”本公演「PARAMUSHIR~信じ続けた士魂の旗を掲げて」を控えている。
■『映画ドラえもん のび太の宝島』
公開時期:2018年3月3日(土)
原作:藤子・F・不二雄
監督:今井一暁 脚本:川村元気
CAST:ドラえもん:水田わさび、のび太:大原めぐみ、しずか:かかずゆみ ジャイアン:木村昴、スネ夫:関智一
© 藤子プロ・小学館・テレビ朝日・シンエイ・ADK 2018
■『恋は雨上がりのように』
公開時期:2018年5月
原作:眉月じゅん『恋は雨上がりのように』(小学館「週刊ビッグコミックスピリッツ」連載)
監督:永井聡 脚本:坂口理子
出演:小松菜奈、大泉洋ほか
撮影:2017年11月15日~12月末(予定)関東近郊にて
配給:東宝
Ⓒ2018映画「恋は雨上がりのように」製作委員会 ©2014 眉月じゅん/小学館