そんなチャンルーから発表された、アフリカとハイチの職人たちとのコラボレーションによって生まれた新しいライン” チャンルー エシカル ファッション インターナショナル(Chan Luu ethical fashion International)”。これまでにも社会奉仕活動に積極的な姿勢を見せてきた当ブランドだが、今回は国連の国際貿易センター(ITC)が推進しているプログラム、エシカル ファッション イニシアティブ(ETHICAL FASHION INITIATIVE)の協力を得て、より持続可能のポテンシャルの高いコラボレーションとして実現した。
実は今回、チャン・ルーは、新ラインとバーニーズ ニューヨーク限定アイテムのリリースに合わせて来日。ここからは彼女に加え、ITCチーフ・テクニカル・アドバイザーであるシモーネ・チプリアー二(Simone Cipriani)も交えて話を伺った。
シモーネ:困窮にあえぐ恵まれない地域の人々を(ITCの指導により)トレーニングし、仕事を提供することにより、尊厳を持ち"みずからのちから"で、貧困から抜け出すことがエシカル ファッション イニシアティブのプログラム全体のテーマ。女性のエンパワーメント(自立)も目的の1つです。
「NOT CHARITY, JUST WORK(寄付を与えるのではなく、雇用を)」というスローガンの通り、職業への手助けであって、チャリティーではありません。
金銭的な支援ではなく、フェアトレード(公正な賃金)や経済的な自立を目標とした支援ですね。世界貿易機関(WTO)と国際連合の合同機関である国際貿易センター(International Trade Centre)によって立ち上げられました。
チャン・ルー:私のアクセサリーはすべてハンドメイドで、ブランド設立当初よりさまざまな国の職人たちと一緒に働いています。そのため、これまでにもフェアトレードなどエシカルな目線で活動をしてきたのですが、表立った活動は今回が初めてです。ごく自然な流れで行ってきたことで、"エシカルファッションのデザイナー"という肩書を付けて欲しくない、という想いがあったので。
そんな時、ハイチでシモーネと会いました。シモーネとのコラボレーションに踏み切った理由は、彼に環境・生産など技術面でのサポートをお願いしたかったから。私はファッション業界で活動しているため、次々と新しい商品を打ち出す必要があります。例えば、1ヶ所に留まって職人たちと対峙するといったことをなかなか叶えられないのですが、彼のプログラムと取り組むことで、それが実現したのです。
シモーネ:私は私で、ITCを通して、職人たちの環境整備や、時には言語を含む技術の教育などのサポートを行っていたので、そこに継続的な雇用を与えてくれるパートナーを求めていました。職人技術を活かしたアイテムを生み出すことができ、世界的に展開できる”アーティスト”を。
二人で笑いながら:ええ。そうですね。
チャン・ルー:慈善団体が同じような形で職人と取り組み、一緒に製品を作って売ろうと試みるケースもありますが、結局は、適切な市場が見つからず、壁にぶち当たってしまう。でもファッション業界はすごく大きなマーケットですし、動きも早いのでその点を理解し、新しいビジョンを持って取り組んでくれるアーティストがいたら持続した生産を作り出すことができます。だからシモーネがもっと発掘してくれるといいですね。
シモーネ:チャンルーというブランドは、伝統技術を実用的かつ国際的なファッションのステージで通用するアイテムへと変換してくれます。職人の技術を向上させる意図も汲み取れます。そして、今までどのデサイナーよりも職人たちに寄り添い、彼らの苦しみを傍で見てきている。だから私たちは、チャンとのコラボレーションを熱望しました。
チャン・ルー:コラボレーションは、半年前に決まりました。バーニーズ ニューヨークはエシカルへの関心も高いですし、そこには、エシカルに興味を持ってくれるお客さんたちがいます。時々、さらに深くエシカルの仕組みや職人達の生活について知りたがるお客さんもいて。職人達は、本当に正統でフェアな賃金をもらっているのか、と心配して聞いてくるのです。そんな時、シモーネに協力をしてもらっている、と話すと皆さん安心するのですよ。今回のプログラムは成功。ほら、たくさんの人が来てくれているでしょう?
チャン・ルー:継続可能な社会づくりにも貢献できます。そして何よりも、職人たちが貧困から抜け出すきっかけを与えます。彼らの尊厳を守りつつ仕事を与えて生活を支えるのは簡単なことではありませんが、貧困も、温暖化と一緒で一人が取り組むことでなく、皆でそこに意識を向けてければいいなと思います。
シモーネ:彼女は、人にも環境にも責任あるファッションを生み出しています。アフリカにきて職人たちと仕事をしに来るデザイナーは他にもいますが、チャンのように持続的な活動につながる人は少ない。大概が1シーズン限りというケースです。とはいっても、一時的なものでは職人達の状況は変わりません。持続的な活動こそが職人達の生活に変化を与え、社会に動きをもたらすのです。
Interview and Text by Reiko Aoyama
自身も旅のような人生を送り、今では私達にコレクションを通しての疑似旅行をさせてくれるチャン。さらに、彼女は職人たちをもファッションを通じて旅に連れて行く。伝統技術を守って先祖代々同じ場所で同じ物を作り続ける生活をしている職人たちの所へ出向き、彼らの技術を広めることで、間接的に世界へと連れ出しているのだ。職人たちも、世界中の人々が自分たちの作った物を付けているのを見てとても喜ぶのだという。
時間が迫り、最後の質問となったので今後の展望について聞いてみた。するとチャンは、少し困った表情を浮かべ、そして突然笑い出してしまった。こちらが、混乱していると、シモーネが、「チャンは、100%アーティストなのですよ。ピカソに次に何をするのかと聞くことと同じです。でも、チャン。今度は、どこに私達を連れて行ってくれるのか教えてくれてもいいのでは?皆聞きたくて仕方がないのですよ。」と助け舟を出してくれた。
「“今回のテーマは?”という質問はデザイナーにはつきものですが、私に限ってはずっと一緒。普遍的なのです。”次は何をするの?”もそう。今まで通り職人たちと物づくりに励むのみです。フレッシュで、まだ誰も見たことの無い物であることはお約束します。でも私は流行(トレンド)は追いませんよ!」