タカヒロミヤシタザソロイスト.(TAKAHIROMIYASHITATheSoloist.)は、2021-22年秋冬コレクションを発表した。
象徴的な自由が崩壊した虚構のような現実世界の中で、デザイナーの宮下貴裕は“終わりはスタート地点”だと定義する。何かが終わりを告げた時、その意識の下で新たな感情の追求が始まり、新しい何かを再構築し始める。抑圧された現代の中でも決して変わることの無かった、宮下の洋服に対する思いに突き動かされるようにして生み出された今季のコレクション。洋服がまた新たな進化へと向かっていく兆しと、人々の感情の新たな芽吹きを感じさせる。
クリエーションにあたり、最初にイメージしたのはビートルズの映画『Help!』。映画の中ではビートルズが自由に遊んでいるようにも見える一方で、当時多忙を極めていた彼らの不自由さも感じ取れる。宮下は“五線譜”を音楽の“制約”に見立て、その中で自由に動き回りメロディを奏でる音符のイメージをデザインに投影した。
その五線譜を表すのが、“抑圧の象徴”ともいえる拘束具だ。シャツやジャケット、パンツの上を横断するかのようにあしらわれたベルトや、連なる紐といった拘束具のディテールが散見された。
身体を縛るようにしてベルトを配したファージャケットやブルゾン、ウールジャケットは、フロントに伸びる複数のジップによって形を変化させ、ボンデージパンツの両脚を縛る紐もまた、中央のジップを開けることでパンキッシュな表情からどこか退廃的なムードに。五線譜に象徴される“抑圧”の中で自在に形や表情を変えることによって、洋服が自由なメロディを奏でているかのようなイメージを連想させる。
宇宙服のエッセンスを落とし込んだオーバーサイズのプルオーバーは、前身頃を斜めにカットするかのようにダイナミックにジップをオン。また、袖口や裾に平行になるようにあしらわれたジップは、服に新たな空間を作り出している。
さらに、前シーズンに続き、性差などに関わらず“誰もが着られる服”を追求した「ワンサイズ」のウェアにも、縦方向ばかりではなく、横、斜めにジップがあしらわれ、よりフレキシブルな変形を可能にした。
首を囲むようにしてあしらわれたチェーンや、安全ピンモチーフもまた、アナーキーな雰囲気を強調し、エッジの効いた金属音を響かせる。これらの金属パーツは、パンク精神に溢れたスタイリスト、ジュディ・ブレイムから発想したモチーフだという。安全ピンを貫通させたパッチにはモールス文字のメッセージがあしらわれており、抑圧の中で戦う宮下自身の声なき心の叫びを示唆している。