サンローラン(Saint Laurent)の2022年冬ウィメンズコレクションが発表された。
ムッシュ イヴ・サンローランは生涯にわたって美術を愛好し、わけてもアール・デコは特権的な位置を占めていたというが、しかし、彼が手がけたコレクションにはアール・デコの明瞭な影響は少ない。2022年冬ウィメンズコレクションでは、ムッシュのコレクション製作においては露わとはならなかった、このアール・デコを着想源とした。
概して華麗で有機的な曲線を描くアール・ヌーヴォーに対して、アール・デコは装飾を廃した直線的な造形に特徴付けられる。それゆえ今季のサンローランは、華麗な装飾性よりも、抑制され、下方へと流れるようなシルエットを基調としている。ドレスは首から足元まで、身体のフォルムに繊細に沿うようであり、洗練された縦のラインを引き立てる。足元では、シアーな素材を用いたスカート部分が歩みに合わせて力強く波打ち、ドレープの躍動感が強調されている。
この「力強さ」。そこに、今季のコレクションに反映させたというナンシー・キュナードの精神を見てとることができるかもしれない。1920年代のパリにおいて、オルダス・ハクスリーやトリスタン・ツァラ、ルイ・アラゴンといった優れた作家や芸術家のミューズであったキュナードは、詩を作るばかりでなく出版にも携わり、サミュエル・ベケットをも発掘、のちには積極的な活動家として活躍することとなる。
したがって、垂直性の強いシルエットはさることながら、ショルダーの力強さもまた、コレクションを特徴付けている。トレンチコートやロング丈に仕上げたライダーズジャケットなどはその好例だろう。また、タキシードやチェスターコートではラペルも大きく設定し、ダイナミックなショルダーからすっきりとした裾にかけて、力強い佇まいを生みだしている。
そして、この力強いフォルムを引き立てるのが、抑制された色彩である。ブラック、ブラウンやベージュなど、あくまで落ち着いたカラーは、ほのかに光沢を帯びたマット素材、繊細なシアー素材、あるいは艶やかに底光りするようなレザーなど、素材の豊かなテクスチャーをエレガントに引き立てる。
なかでも官能的に光沢を放つフェイクファーは、ジャケットを縁取るようにあしらわれ、ロングコート全体に用いられ、あるいは分量をふんだんに使用して首元を飾り、その大胆なボリューム感と相まって力強くも煌びやかな雰囲気を織りなした。