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江口:僕も水墨画というと、最初は襖や掛け軸に描いてあるイメージでした。自分とは遠い世界だと感じたからこそ、どうやって現代のエンターテインメントにするのか、興味が出てきました。

実際、水墨画の先生の話を聞いていると、僕たちは風景を見ているんだと思っていたけど、先生は描いた人の呼吸を見るということを言っていて。そういったところを突き詰めていくと、面白さが深くなる世界でした。

筆を使って、墨の濃淡だけで描くというシンプルな方法で、真っ白なところに人を感動させるものを一瞬で描く。そこには、現代のストリートペインターのような雰囲気もあります。だから、水墨画というものがすごく新しいもののように思えてきました。その辺にふれられたのが楽しかったです。

江口洋介, 横浜流星 インタビュー|写真2

──水墨画には、現代に訴えかけるものがあるのですね。横浜さんはいかがでしょう。

横浜:僕自身が水墨画をやったとき、ちゃんと自然に向き合うことができて、それがとても大事な時間でした。これまで何気なく見ていた自然への見方も変わりましたね。水墨画を通して、自然は素晴らしいものだなと感じることができました。

江口:西濱は、命を描くという極致に行っている人です。これだけめまぐるしい毎日のなかで、食事の前に、命をいただきますと手を合わせることは簡単なようで難しい。西濱は、自分が生きている中で犠牲にしている命がある、それによってエネルギーを得ているという、根底にあるものを常に意識しているんでしょうね。

今、スマートフォンが広まって写真も手軽に撮られる時代ですが、ピントを自分でぐっと合わせて、被写体に迫って、ぱっと撮ると、写真はまったく別のものになるんです。水墨画はそれに近くて、自分のリアルと想像力がせめぎ合うものだと捉えられるのでしょう。西濱は、この問題をざっくり斬っていく。この映画にはそれが描かれている。

江口洋介, 横浜流星 インタビュー|写真11

──自然や命に迫るところが、映画『線は、僕を描く』の魅力なのですね。

江口:デジタルデトックスのようですよね。この映画には、壮大な自然が描かれているし、食べること、生きること、頑張ること、そして人を思うことといったように、人が生きていくうえでベーシックに大切にしたいものが散りばめられています。

SNSが普及し、何に対しても「いいね」で返せてしまうスピードの世界のなか、この映画では、本当に良いものにはすぐに「良い」とは言えないのかもしれないという幸福感を感じることができます。現実ではあるけれども夢のような時間を与えてくれる。そういう意味でも、一見古くさいと思われるかも知れない水墨画を題材に、あえて現代に向けて映画を作ったのだと思います。

作品情報

映画 『線は、僕を描く』
公開日:2022年10月21日(金)全国ロードショー
原作:砥上裕將『線は、僕を描く』(講談社)
監督:小泉徳宏(『ちはやふる』『カノジョは嘘を愛しすぎてる』)
脚本:片岡翔、小泉徳宏
企画・プロデューサー:北島直明
出演:横浜流星、清原果耶、細田佳央太、河合優実、矢島健一、夙川アトム、井上想良、富田靖子、江口洋介、三浦友和
配給:東宝

©砥上裕將/講談社 ©2022映画「線は、僕を描く」製作委員会

Photos(16枚)

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