2024年12月27日(金)公開の映画『私にふさわしいホテル』にて、主演を務めるのんと滝藤賢一にインタビュー。
柚木麻子による小説「私にふさわしいホテル」が実写映画化へ。新人賞を受賞したにもかかわらず、単行本も出版していない不遇な新人作家・相田大樹こと中島加代子が、己の実力と奇想天外な作戦で、権威としがらみだらけの文学界をのし上がっていく痛快サクセスストーリーだ。
物語の舞台となるのは、実際に数々の文豪が宿泊し、原稿を執筆したという「山の上ホテル」。昭和レトロな空間で、加代子と“不遇”の原因となった大御所作家・東十条宗典の攻防戦が繰り広げられる。
そんな『私にふさわしいホテル』の公開に先駆け、のんと滝藤賢一へインタビューを実施。コミカルな会話劇を展開する2人が胸を張って「いい瞬間だった」と語る現場での様子から演じる上で心がけていること、演技を続けるモチベーションの源泉まで、じっくり話を伺った。
『私にふさわしいホテル』は目的のために手段を選ばない加代子と、その罠に気づきつつもなんだかんだ引っかかってしまう東十条のテンポのいい会話劇や人間味あふれるストーリーが魅力です。劇中で、うまくいかなくても何度も立ち上がる姿が描かれていますが、おふたりが諦めずに何度もトライしたご経験はありますか?
滝藤:まさに役者がそうですよね。満足することはないというか、常に打ちのめされる。
たくさんのご経験を持ちの滝藤さんでもそうなんですか!?
滝藤:僕はもうずっとそうです。正解のない世界で正解を模索し続けるということでしょうから。何で諦めないんだろう?ポッキポキに心が折れて、こんちくしょー!と思いながらやってます。
その悔しさを原動力に変えていらっしゃるんですね。
滝藤:ちょっと立ち直れないときもありますけどね。(笑)
のん:私の場合は、怒りんぼなのでうまくいかないと“いー”ってなってエネルギーに変えます。(笑)自分の頭を働かせて、どうやろうかな?と試行錯誤しています。
作品ごとにでしょうか?
のん:そうですね。日常的にも…困難が待ち受けてますね。(笑)とにかく一生懸命生きてます。出不精なので、休みの日とか、1日中お家にいるんですよ。そういう時に、お家のことが出来れば良いのですが、サボって、ずっと眠っていたりとか…。あとは話し下手なので、上手く話せるようになりたいな、とずっと思っています。
おふたりは加代子ほどとはいかずとも、目的のためなら手段選ばないタイプですか?
のん :似たところはあります!自分のやりたいことに向かって、猪突猛進になるタイプですね。周りを置いてけぼりにする。(笑)
滝藤:(笑)
のん:役者のときは、わきまえているのですが、自分の発表するプロジェクトや音楽だと、周りのスタッフさんが疲弊している感があります。
滝藤:僕は手段を選ぶタイプですね(笑)。この前夫婦で意見が分かれたのですが、僕は“学校休んででも家族で旅行したい“、妻は“子供の試験があるから終わってからにしよう”という意見。すると僕は、“試験勉強は旅行先でするのはいかがかしら?“絶対やらないと思うけど(笑)。妻の言っていることがもっともなので、“じゃあ試験がない子と行こうかしら?“なんてことを何日もかけながら、空気を読みながら、やっております。
のん:素敵な話。
滝藤:本当!?毎日探り合いだよ?(笑)
のん: (笑)
ちなみに、今回のような原作がある作品と、オリジナルの作品だと演技のアプローチは変わりますか?
滝藤:原作があると、セリフの一言一言について、原作に「なぜこの一言が出てきたか?」いうヒントがあると思うんです。オリジナルは一言を生み出すためのバックボーンを自分で考えないといけません。
のん:私も原作は台本を読み解く攻略本だと思っています。小説だと、ルックスが見えないので気負いは少ないですが…アニメや漫画のように絵があると、ちょっと緊張しますね。イメージを近づけないとと思って。
滝藤:出来る限り準備はしますが、どれだけ準備しても、それが結果に繋がるかは分からない。原作を読んでなくてそれほど準備していなくても、のんちゃんや他の役者さんからパワーをもらって、いい芝居ができてしまえば、準備なんて必要ない。難しいですね。…そもそもいい芝居ってどんな芝居なんですかね(笑)。
のん :待ち時間に滝藤さんが原作の本と台本取り出して、 ずっと書き込んでいらっしゃったのが印象的です。気づかれないように覗いてみたんですけど、すごい量で読み解けませんでした。(笑)
滝藤:気づかなかったー!しつこいんですよ僕。往生際が悪いんですよね。それで何が変わるか分かりませんが、諦めたくないんです。
のんさんは、『私にふさわしいホテル』の時代的な馴染みがなかったかと思います。そのような時はどうしますか?
のん:近そうな年代の空気感を掴むために、1980~90年代の作品を見ていました。小説家ではないのですが、「古畑任三郎」で中森明菜さんが漫画家を演じられたお話を見ましたね。ムードは違いますが、“昭和の気質”を感じられて参考にさせていただきました。
その点で、原作の舞台でもある山の上ホテルの撮影は昭和の雰囲気を掴むには良かったのではないでしょうか?
滝藤:山の上ホテルで撮影できたことは、何事にも代えがたい経験です。数々の文豪の方が、このホテルで執筆されてますから。川端康成、三島由紀夫、素晴らしい作家さんたちが、僕たちに力を与えてくれたように感じます。
実在する場所でお芝居できるっていうのは、ありがたいこと。セットでやる何十倍、何百倍も気持ちがのってきます。
のん:とても貴重な体験でしたね。撮影じゃないと許されないようなこともできましたし…!アドレナリンが出ました。(笑)
作品に関係なく、演技をする上で心がけていることはありますか?それを『私にふさわしいホテル』では、どのように落とし込まれたのでしょうか。
滝藤:僕はリアクションですかね。とにかくそこを忘れないようにだけ意識していました。自分のセリフをどう言おうかというよりは、のんちゃんの言ってることをしっかり聞いてリアクションする。
のん:しいて言うなら、役の良いところも、欠点も全部拾って、その欠点が自分と持ってる欠点とすり合わせられるように、 と考えていました。
良いところも悪いところも両方ですか?
のん:良いところはあまりすり合わせないんですが…悪いところは、見る方に実感を持っていただけけるようすり合わせることが多いですね。日常生活だと欠点ってあんまり活かされないと思いますが、物語の中だと加代子みたいなキャラクターでも、おもしろおかしくなります。
滝藤:(笑)
のん:“欠点が愛おしくなる”ように心がけています。加代子は、脇目も振らずに目的に向かっていろんな人を出し抜いていくのが欠点だと思うんですが、その欠点があるからこそ、自分の目的だけに向かってるからこそ、敵も見方も垣根がないところが面白いなと感じていて。東十条先生とかもめちゃくちゃ敵だったのに、味方にしたり。(笑)
滝藤:目的のためならね!(笑)
巻き込んでいきますよね。関係性が180度変わっていきます。
のん :その根本的にあるのが、好きな気持ちだと思ったんです。小説が好きとか、小説を書いていきたいって気持ちが めちゃくちゃ強くて。その好きに支配されてるから、周りが見えなくなる。東十条先生のこともリスペクトしていて、東十条先生の小説が好きだからこそ、怒ったり罵ったりしてるんだと思います。
根本に好きという気持ちがあるから、何をしても加代子を嫌う人はいないというのは、物語を通して深く感じました。
のん:はい、演じていてとっても気持ちのいいキャラクターでした!