『スイート・マイホーム』は小説としても複雑な構成を持つ作品ですが、齊藤監督が実写化するうえで葛藤はありませんでしたか?
齊藤:もちろんありました。原作とは2019年に出会ってから、「果たして自分が実写化していいのか…?」と自問自答を重ねながら、何度もプロデューサー陣とも話し合いをしてきました。映画では原作通りに描けないから、凄く角をとってマイルドに実写化することによって、不時着してしまった作品を僕自身沢山知っていますし…中途半端なものを作ることだけは辞めようと。
そのうえで実写化に踏み切った一番の理由は?
齊藤:最終的に導いた結論は、映画というスクリーンに、生身の人間が宿すものというのが、唯一原作に太刀打ちできる光なのではないかと。もちろんそこには、才能あふれるキャストやスタッフの方々の力が不可欠なのですが。
『スイート・マイホーム』は、こうして現場に集った沢山の方々の情熱やエネルギーを掛け合わせて出来た作品。窪田さんや窪塚さんの兄弟役をはじめとする、最高のキャスティングが出来たことは僕にとっても大きな誇りです。
先ほど、現場は柔和な雰囲気だったとお伺いしましたが、実際に窪田さんと窪塚さんはシリアスな役柄を務めています。こうした役柄の影響というのは、ご自身の中でも残っていく感覚があるものなのでしょうか?
窪塚:俳優業というのは、どんな役柄であれ、大なり小なり、自分の経験として残っている感覚はありますね。例えば、イタリア旅行に行って帰ってきたのに、他の誰かから「さっきの旅行はなかったことに。」って言われても、「いやいや!俺イタリアで色んなもの見たし、食べたし!」ってなるでしょ?(笑)
実際に自分で経験してしまったものって、仮に時が経って忘れていたとしても、そのエフェクト自体は潜在的に自分の中へと残っていくものなんですよ。だからどんな役柄を経験しても、あらゆるエフェクトを肯定して、それを自分の糧として肥やしにしていけば、必ず次の役柄に活かすことが出来るはず。それが俳優業の中で自分が出来ることなのかなって感じています。
齊藤:たとえ話が、超分かりやすい(笑)
窪田:僕自身も役柄からインプットされるものは、必ずありますね。そして役をやればやるほど、どんどん付着していくので、自分自身のキャパを広げることも凄く大切だと感じています。
そして、とことん墜ちていく役とか、邪の道に行く役というのは、人間の<陰>の部分に通じるものだと思うので、実はそこまでハードではない。むしろ、とてつもなくピュアだったり、心が広い役柄というのは、画面でごまかしがきかないので、僕自身の基盤をしっかりと確立させなければいけないんです。そう考えると、俳優業は私生活と仕事が表裏一体の関係性だと思うので、役柄でアウトプットをしていくためには、常に心を豊かに、ゆるぎない自分軸を持つ必要があるのかなと感じています。
映画『スイート・マイホーム』
公開日:2023年9月1日(金)
原作:神津凛子「スイート・マイホーム」(講談社文庫)
監督:齊藤工
出演:窪田正孝、蓮佛美沙子、奈緒、中島歩、里々佳、吉田健悟、磯村アメリ、松角洋平、岩谷健司、根岸季衣、窪塚洋介
制作プロダクション:ジャンゴフィルム
配給:日活・東京テアトル
■あらすじ
冬が厳しい長野。スポーツインストラクターの清沢賢二は「まほうの家」と謳われた一軒のモデルハウスに心を奪われる。その住宅の地下には、巨大な暖房設備があり、家全体を温めてくれるという。理想のマイホームを手に入れ、充実を噛みしめながら新居生活をスタートした清沢一家は幸せの絶頂にいた。ところが、その家に越した直後から奇妙な出来事が起こり始める。
「家」を取り巻く恐怖の連鎖は家族だけに留まらず、関係者の怪死などに波及し始め、そして予想を超えた衝撃の結末に向けて加速していく。
©2023『スイート・マイホーム』製作委員会 ©神津凛子/講談社