日本人キャストやチームと共演した感想を教えてください。
何かミスをした時に軌道修正してくれる多くの日本人のコラボレーターに出会えたことは非常にラッキーでした。そして、自分の世界観を理解してくれる仲間と仕事をできたことも幸運だったと感じています。例えば、劇中に出てくる日本語の広告物やパッケージといったグラフィックは、僕は全く意味を理解が出来ない。分かるのは、そのビジュアルだけなんですよね。
チームメンバーは僕に本来のデザインや意味を教えてくれて、僕はそれを理解したうえで、敢えて他とは違うものを作るというプロセスを選びました。日本の方が見ると、あれ?と思うかもしれないのですが、この映画はファンタジーであって、僕は新しいものを作りたかったのです。
翻訳についても、僕の世界観にぴったりなセリフや言葉を選んでくれた野村訓市にも感謝しています。彼は、僕の事も映画の事も昔から知っていますから信頼の置ける人物のひとりです。
監督にとっての映画制作とは?
最終的に僕にとっての映画制作とは、ストーリーテリングであるということ。僕が作りたい映画というのは、映画を観た人を、どこか興味をそそらせる非現実的な世界へと連れ出してあげるもの。例えそれが恐ろしい場所であったとしてもね。そして同時に誰かの人生に何か価値のあるものを届けてあげるものです。
価値というのは、その映画の登場人物の人生、もしくはその脚本や制作方法から見出すかもしれない。そして時には、役者がランプを灯すだけのすごくシンプルなシーンでも、その人の記憶の中に残り続けることがあるかもしれない。その映画がどんなジャンルであれ、映画の中で感じた経験が、人の人生の一部となって残ることを僕は信じています。
制作意欲を突き動かす原動力は?
何かのプロジェクトに取り掛かっている時に、‟幸せだ“と感じる気持ちですね。何年も前のことですが、ひとつの映画を撮り終えて、次のスケジュールも空いていたので、夏の長期休暇を取りました。あれは間違いなく人生で最悪の休みでしたね。何故なら旅行先で自分が何をしたらいいのか全く分からなかったからです。まるで自分がそこに存在しないような感覚でした。
もし休暇に出かけるとしても、僕はエディターやコンピューターチームを連れて行って、いつでも仕事ができるようにしたい。制作に取り組むことが、僕の人生の中で喜びであるからです。もちろん、自分の家族と休暇を過ごすことも好きですが、自分の仕事ができるという環境もそれくらい僕にとって大切なことなんです。
アンダーソンは『犬ヶ島』に関して、会見では以下のようにコメントした。
「私たちは今回、とてもシンプルな理由で最新作の舞台として日本を選びました。それは私が狂おしいほど、日本の映画、アート、食べ物、そして文化が大好きだからです!私たちは黒澤明監督、宮崎駿監督作品に対して深い敬意を持っているのと同様に、北斎や広重の絵画、そして今作に協力いただいている、現在活躍中の数多くの日本人俳優、アーティスト、ミュージシャンに敬意を感じています。願わくば、この作品を通して、外国人である私から日本のストーリーテリングに対する熱烈な関心、尊敬の念、そして賞賛を伝えられれば幸いです。」
声優陣は、アンダーソン作品常連の俳優陣であるビル・マーレイ、ジェフ・ゴールドブラム、エドワード・ノートン、ハーヴェイ・カイテル、ティルダ・スウィントン、F・マーレイ・エイブラハム、ボブ・バラバンに加え、スカーレット・ヨハンソン、グレタ・ガーウィグ、ブライアン・クランストン、リーブ・シュライバー、コーユー・ランキン、ヨーコ・オノら多彩な才能が集結する。
制作陣は全世界で大ヒットし、アカデミー賞最多9部門ノミネート、最多4部門受賞のウェス・アンダーソン監督作『グランド・ブダペスト・ホテル』(2014)のメンバー。『犬ヶ島』の為に再集結した。
そんな制作陣が趣向を凝らした本作は、第76回ゴールデングローブ賞において、アニメ映画賞と作曲賞の2部門でノミネート。ウェスアンダーソン作品4作品連続ノミネートとなる快挙だ。さらに、第91回アカデミー賞では、長編アニメ映画賞、作曲賞の2部門にノミネートされた。
なお作曲賞にノミネートされたアレクサンドル・デスプラは、昨年度のゴールデングローブ賞で最優秀作曲賞受賞を獲得した映画『シェイプ・オブ・ウォーター』 の楽曲を手掛けた人物でもある。