企画展「隈研吾展 新しい公共性をつくるためのネコの5原則」が、東京国立近代美術館にて、2021年6月18日(金)から9月26日(日)まで開催される。
《国立競技場》や《角川武蔵野ミュージアム》、2018年にスコットランドに開館した《V&Aダンディー》の設計に参画するなど、現代日本を代表する建築家のひとりとして国内外で活躍する隈研吾。その土地の環境や文化に溶け込むように設計された隈建築は、世界中の人びとを魅了している。
大規模個展である「隈研吾展 新しい公共性をつくるためのネコの5原則」では、隈建築のなかから「公共性」が高いものを中心に取り上げ、隈自身の解説とともに建築模型や写真などを紹介。さらに、瀧本幹也ら国内外のアーティストによる映像作品なども用意し、隈建築の特徴を実感できる展示を展開する。
本展では、建築の「公共性」をめぐる隈独自の方法論を、5原則──孔・粒子・斜め・やわらかい・時間──として抽出し、この分類に基づいて隈建築68件を紹介する。
ここで「公共性」とは何だろう。コンクリートと鉄で構成された20世紀の近代建築は、なるほど合理的・機能的なシステムに基づいて超高層ビルをも生みだした。しかし、これはいわば効率の論理に従っており、そこには建築とともにあるべき人間の姿が疎外されていると言えないだろうか。
そこで隈が目指すのは、“人間に優しい”建築をつくることだ。そのひとつの方法が、木を素材とすることである。しかし、それだけで人に優しい建築ができるわけではないうえ、建築の構造には鉄を欠くことができない場合もある。隈による5原則とは、人間に優しい建築、つまり人が集まる場所をつくる、新しい公共性を育むものなのである。
たとえば「孔」。フランスの《ブサンソン芸術文化センター》では、川に沿って建てられた建物の真ん中に大きな穴が開けられ、川と街とをつなぐ役割を果たしている。
また、建物と建物とのあいだにできる隙間も、孔であると捉えられる。《アオーレ長岡》では、市庁舎棟とアリーナ棟、市民協働センターの入った棟という3つの建物のあいだに大きな吹き抜けの空間を設けており、この“空洞”が市民の憩いの場となる。建物という「ハコ」の中でなく、その外に形成される「孔」が、日常的に人びとが集う空間としてはたらくのだ。
一方で「粒子」とは、公共建築に多い巨大な建築を、人間のスケールに引き戻す構築方法だ。どこまでも平坦な鉄やコンクリートは、そのテクスチャーを保ちつつ巨大なスケールの建築へと展開しうる。しかし、たとえば幅10.5cm程度の木のパーツを基にすると、適切に組み合わせることで大きな荷重を支えることができるのみならず、その構成要素は人間的なスケールとして感じられる。
たとえば《国立競技場》は、巨大なスタジアムを小さな小径木の集合体として構成。また、青山にある台湾産パイナップルケーキのフラッグシップストア《サニーヒルズジャパン》では、日本の伝統的な技術「地獄組み」を応用してヒノキ材を組み上げることで、柱なしでも3階建ての建築を支えられるようにしており、会場ではその部分の原寸模型を目にすることもできる。このように「粒子」から構成された建築においては、その部分部分が人間的なスケール感ばかりでなく、テクスチャーの豊かな表情をも醸成している。