竹中直人、山田孝之、齊藤工が監督として共同制作を行う映画『ゾッキ』が2021年4月2日(金)より全国公開される。本作は、大橋裕之の短編作品を約30編収録した人気漫画『ゾッキA』『ゾッキB』の中から、『父』『Winter Love』『伴くん』など多数のエピソードを織り交ぜて実写映画化するもの。何気ない日常の独特のおかしみや人間の優しさをシュールに描き出した作品となっており、脚本は舞台演出家・劇作家の倉持裕が担当する。
今回は、『伴くん』のパートの監督を務めた齊藤工と、伴くん役を演じたお笑いコンビ・コウテイの九条ジョーにインタビューを実施。高校生の牧田(森優作)と伴(九条ジョー)というクラスのはみ出し者同士の友情を描いた『伴くん』における最大の挑戦や撮影裏話、さらにふたりの高校時代について伺った。
齊藤監督はこれまでに映画『blank13』や『ATEOTD』(アテオット)などを手掛けられてきましたが、本作における最大の挑戦とは何だったのでしょうか?
齊藤:漫画原作の実写化って動員(目標)をクリアしている作品は多いと思うんですけれども、1本の映画として、原作ファンの方が“実写化してよかった”と思える作品って限りなく少ないと思うんです。僕も『ゾッキ』の原作ファンだったので、最初は“この作品を実写化して良いのだろうか?”と思っていました。むしろ漫画という状態でこの作品を楽しむことがベストなのだろうということは、図らずともわかっていたつもりなので、そこをどうクリアしていくかが最大の挑戦だったかと思います。
どのようにクリアされていったのでしょうか?
齊藤:『伴くん』という物語は原作の中で一番好きな作品でしたが、最初は僕が担当する予定ではありませんでした。でも他の誰かが『伴くん』を撮るかもしれないと思ったら、嫌だなと思いまして。だったら原作ファンだからこそ、自分を一番厳しい環境に置いて、役者さんやスタッフさんに力をお借りしながら、とりあえず自分が納得する作品を作ろうと思いました。原作をこえる訳がないと思っていたんですけど、超えてくれたんですよね。
九条さん演じられる「伴くん」は、齊藤監督ご自身でキャスティングされたとお伺いしました。
齊藤:実は「伴くん」のキャストは、中々決まらなかったんです。候補の方は何人かいらっしゃいましたが、ずっと確信を持てずにいました。そんな中、「ネタパレ」というバラエティ番組に出演させていただいただいた際に九条さんとお会いしました。収録が終わってからも九条さんのシルエットなど佇まいが忘れられず…、結局オファーさせていただきました。
九条:オファーいただいたとき、ドッキリ番組かと思いましたよ。
齊藤:役柄的に坊主にしなければないないということで、先方のお返事がグレーだったんですよね。でも、諦めきれなかったので、知り合いの方に「大橋先生の作品を映画化するプロジェクトがあって、その中のとっておきの役を九条さんにやって欲しいんです」と連絡しました。すぐに先方に想いを伝えてくださって、お返事をいただけました。実際に九条さんにお会いしたのは衣装合わせの日でしたね。
九条:そうでした。しかもその日に坊主にしたんですよね。齊藤監督が直接刈ってくださって…いきなり真ん中から刈られたので、“なんなんだこの人は”と思いました(笑)。でも坊主になってから鏡を見たら、本当に「伴くん」そっくりで、これは選ばれた意味があるのかなと思いました。
本作で俳優デビューされる九条さんですが、役作りはどのようにされたのでしょうか?
九条:俳優経験が0な分、“誰よりも一番やる気あるんだぞ”っていう気持ちが強かったので、まずは原作の本を何度も読み返して、台詞も全部覚えてからのぞみました。‟僕が選ばれた意味“は何かあるはずだと信じて、ボイスメモで録音した台詞は、お風呂に入っているときとか、仕事の帰り道とか、ずっと自分に浸透させるように聞いていました。ビジュアル面に関しては、僕が演じる「伴くん」がやせ型なので、当時はサラダチキンを主食に1、2ヶ月で7~8kg落としてゲソゲソな体型に仕上げました。
実際に撮影がスタートしてから戸惑われることはありましたか?
九条:カメラの位置を変えて同じシーンを何回も撮影するというのが衝撃でした。テレビの収録ですと回しっ放しで、後からディレクターさんが編集されますので。あと、普段は自分でネタを書いて、舞台の上で演じて、今日はアカンかったなとか、今日はウケたなっていうことをずっと繰り返しますが、映画の撮影では監督に目掛けてOKが出るまでやり続けるというのが新鮮でした。
齊藤監督は俳優に初挑戦される九条さんのことをどのように思われていたのでしょうか?
齊藤:初日から九条さんと森さんの距離感が、もう伴と牧田で。このふたりをただ撮れば良い作品ができると思えるほどの関係性を作ってくれていましたので、本当に助かりました。九条さんが映画に初出演されるっていうことで、森さんたちがしっかりリカバリーしてくださっていたみたいですし。
九条:そうなんです。森さんには、毎日、宿泊先の大浴場で僕の台詞の相手までしていただきました。しかも、撮影が全部終わった後に、マネージャー経由で手紙までいただいて。本当に牧田役が森さんじゃなかったら、あそこまで良い「伴くん」を演じられなかったと思います。
齊藤:ふたりの距離感がワンカットで撮影することを決断させてくれたこともありました。居酒屋のシーンがあるんですけれど、そこは大事なシーンになるので最初はカット割りを結構考えていたんです。でも、ふたりが作る空気をそのまま映せば良いと思ってワンカットで撮影しました。
齊藤監督は、竹中監督や山田監督と比べて一番テイク数が多かったというお話を伺ったのですが。
齊藤:そうですね(笑)。しかも僕のパートでは結構過酷なシーンがありまして。大雨の中のシーンは、極寒の2月に撮影したんですけど、蒲郡市は海風もあるので大変でした。
九条:工さんから撮影前に“濡れ場”があるとは聞いていたんですけど、本当に雨のガチ濡れ場で…(笑)。びしょ濡れになって、大変でした。
齊藤:たしかに、初めての映画の現場としてはかなりハードな現場を味わわせてしまったなと思います。ただ、九条さんの想いとか旨味とかは映せたなと思っています。
九条:めちゃくちゃ嬉しいです。
齊藤:僕はいつも自分の作品を撮る際に思うんですけれど、出演者の方の代表作とまでは言わないですが、自分の作品をきっかけに次の映画に繋がったらいいなと思うんです。だから、その人の良い部分というか、素敵な部分をどうにかしてえぐり出したいと思って撮影にのぞんでいます。
『伴くん』は、はみ出し者の高校生を描いたお話ですが、おふたりはどのような高校時代を過ごされていたのでしょうか?
齊藤:僕は、五木寛之の小説『青年は荒野をめざす』や沢木耕太郎の『深夜特急』に影響されて、バックパッカーみたいなことをしていました。高校最後の春休みも卒業式にだけ帰国してその後また旅に出たのですが、自由すぎて逆に不自由だなと思いました。高校生とか学生の時は、囲いの中にいたからこそ、その外を思えたのだなと。校則っていうルールがある中にいたからこそ見つけられた自由がすごく自由だったということに気が付いたんです。
今回の作品に通じることも?
齊藤:はい。『伴くん』のストーリーもそうですし、大橋さんが描く学生時代って、その自由不自由みたいなものが、結構切なく描かれていると思います。卒業後には、絶望ではないですけれども、生きていくために何かを諦めた大人たちを描かれている。大橋さんが学生時代を一つのテーマとして作品を多く残すのは、そこに何か自由があるのかなと思いました。