また、田植えの様子を紹介する箱には、異なる年に撮影された写真を収めているように、この展示では、豊かな自然とそこに住まう人びとが織りなす総体として旧徳山村が、四季を介して立ち上がる。いわば、増山のアルバムの中──ひいては増山の記憶の中を垣間見るかのような、静謐な空間が展開されている。
リトアニアの小村に生まれたジョナス・メカスは、同時代のセカルと同様、反ナチス活動により強制収容所に収監された。終戦後は難民キャンプを転々とし、ニューヨークに亡命。英語も話せず、複数の職を渡り歩き、貧困と孤独に生きた。そうしたなかでメカスは、16ミリの映画用カメラを借金により購入。後に「映画日記」と呼ばれることになる、身の回りの撮影を始めたのだった。
渡米前は詩作を手がけていたものの、言語でなく映像という表現媒体をメカスが選んだ背景には、異言語の壁があったのかもしれない。また、異国の姿を対象化する際に、映像が適していたのかもしれない。いずれにせよメカスにとって映像とは、自身が感じたことを留めおく、あるいは感情を記録する可能性を秘めた媒体であった。
メカスが使用したカメラは、金属製で重みのあるものであり、手ぶれが生じやすい。また、露出やピントも手動であるため、画面は不意に明滅してはぼやける。そうした不安定性は、通常の映像ならば「失敗」と見なされるものの、メカス作品においては、観る者が映像のプライベートでアットホームな雰囲気を経験するような、ある種の臨場感と親密さをもたらしている。
本展では、そうしたメカスの映像に加えて、撮影フィルムの一部を選んでプリントした「静止した映画フィルム」を展示。身近な存在である家族や友人たちの日常に潜む、一瞬一瞬の輝きを捉えたそれらの作品からは、メカスのまなざしを自身に引きつけて追体験するようにして、その“記憶にふれる”ことができるのかもしれない。
企画展「Walls & Bridges 世界にふれる、世界を生きる」
会期:2021年7月22日(木)~10月9日(土)
会場:東京都美術館 ギャラリーA・B・C
住所:東京都台東区上野公園8-36
時間:9:30~17:30(入室は閉室30分前まで)
休室日:月曜日(7月26日(月)、8月2日(月)・9日(月・休)・30日(月)、9月20日(月・祝)は開室)、9月21日(火)
観覧料:一般 800円、65歳以上 500円
※学生以下、80歳以上、外国籍は無料
※身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳の所有者と付添者1名は無料
※無料対象者は、証明できるものを持参のこと
※混雑時に入場制限を行う場合あり
【問い合わせ先】
TEL:03-3823-6921