ダブレット(doublet)の2022-23年秋冬コレクションが発表された。
毎シーズン見る者を圧倒するユニークなショーを披露しているダブレット。今季、デザイナー・井野将之がコレクション発表の舞台に選んだのは、栃木県足利市だ。一体、栃木の地でどんなショーが行われるのか…?期待に胸を膨らませながら、東京からバスを走らせること2時間半。辿り着いた先はなんと―――「渋谷」だった。
そう、会場となったのは、道路や信号、JR渋谷駅ハチ公口、落書きや汚れまでもが実物大で再現された「渋谷スクランブル交差点」のオープンセット。街を闊歩するエキストラのリアリティも相まって、現場はさながら本物の渋谷のようだった。
“多様”であることを誰も気にしないことこそが本当の“多様性”ではないか。そんな想いを持って作り出した今季のテーマは、「THIS IS ME」。パラレルワールドのような渋谷の街や、バーチャルヒューマン「imma」のマスクを被ったモデル達、アバターのように通りを行き交うエキストラによって、多種多様なアバターが当たり前に存在する「仮想空間」を現実世界で表現した。
多様性を考えるにあたり、“普通”を覆す少数派のエネルギーに注目したという井野。ルックには、ルーズソックスを思わせるタイツや、キーホルダーをじゃらじゃらと付けたスクールバッグ風ボストン、ショッキングピンクに彩られたジャージのセットアップなど、1990年代に若者の間で旋風を巻き起こした“コギャル”風のファッションが散見された。
中でも圧倒的な存在感を放っていたのが、何種類ものファーを繋ぎ合わせたビッグシルエットのコート。実はこのコート、毛皮屋倉庫に眠っていたファーの襟部分だけを集めて作ったアイテムだそうで、“普通を覆す”という井野の想いを体現した1着でもある。
また、絞りを効かせた衣服が多く登場していたのも印象的だ。ロックプリントTシャツやパーカーをはじめ、本来サイズ調節が難しいデニムパンツなどにも伸縮性のある絞り素材を使用。体型やサイズの基準に囚われず、誰でも同じように着用できるアイテムとしてアップデートしている。
ヴィヴィッドなカラーパレットに加え、一層ルックの派手さを際立たせているのが、エネルギッシュなアニマルモチーフの数々。グリーンのゼブラ柄トップスにピンクのヒョウ柄カーディガン、タイガー模様のベルトの大胆な組み合わせや、蝶々モチーフを繋ぎ合わせたクロシェ編みニットなど、キッチュな要素に溢れたピースがコレクションを力強く彩っていた。
全てのルックが登場し終わると、モデル達は「imma」マスクを脱ぎ捨て、年齢、性別、国籍、体型…それぞれ異なる元の姿に。バーチャルの理想世界から現実世界へと帰還した彼らは、「現実世界だって捨てたもんじゃない!」と言わんばかりに、自由にスキップしたり、あるいは叫んだりしながら、思い思いのペースで花道を凱旋した。