原作・香川まさひと、作画・月島冬二による漫画「前科者」を原作とした実写化作品、映画『前科者』が2022年1月28日(金)に全国で公開。有村架純演じる“保護司”の阿川佳代が様々な前科者と向き合い成長する姿と前科者たちが引き起こす事件を描く社会派サスペンス映画だ。
そんな映画『前科者』の公開にあたり、主演を演じた有村架純にインタビュー。保護司という役を演じたことでの心境の変化、物語を通して考えた理想の社会の在り方など様々な話を伺った。
有村さんが演じられた主人公の阿川佳代は、保護司という珍しい役柄でした。改めてどのような職業なのか教えて下さい。
犯罪歴があり社会復帰を目指す保護観察対象者の生活を見守り、サポートするのが保護司の仕事です。私自身、この作品に出演するまで知らなかったのですが、実は保護司は無給のボランティア活動なんです。
保護司として活動されている方は、定年退職された方や年齢が高い方が多いのですが、中には20代の女性もいたりと別のお仕事と並行して保護司をされている方もいらっしゃいます。そのような活動をしている人たちがいること、保護司がどのような仕事なのかを世の中にもっと知って貰えたら嬉しいなと思いながら演じました。
そんな保護司を演じるにあたり、実際に保護司の方からもお話を伺ったそうですね。それを踏まえて、どのようなことに気を付けて役を演じられましたか。
保護観察対象者との<距離感の取り方>を意識しました。実際にお話を伺った保護司の方は犯罪を犯した理由であったり、保護観察対象者個人の事情に関することを直接聞いたりせず、とにかく見守るということに徹すると仰っていました。こういったリアルな保護司の姿勢は、脚本だけではわからないことなので非常に勉強になりましたね。
またその上で、佳代はどんな保護司なのだろう?と考えた時に、彼女の性格や温度感といったものを監督と話し合ったうえで、“ハートは熱く、頭は冷静”な保護司という人物像も大切にしていました。
そんな佳代は熱い気持ちを持ちながらも、自らも暗い過去を抱え、不器用な点も多い保護司でした。
はい。それこそ佳代の愛すべき要素だと思います。もし佳代が熱血教師や正義のヒーローのようなキャラクターだったらこの物語は成立しなかったと思うんです。佳代も癒えない傷を抱えていて、劣等感や社会と上手く向き合えない部分があったからこそ、保護観察対象者をはじめ、色々な人に寄り添える人間になったのかなと感じました。
真面目な内容だけでなく、所々登場するコミカルな演技も印象的でした。特に酔っ払いのシーンは、不思議と佳代らしさがでていたというか。
酔っ払いという“素の状態”の佳代も表現できればいいなって思って演じたんです。普段は保護司という職業柄、真面目なイメージを持っていますからね。
そして最近なぜか酔っ払いの演技が多い気もします(笑)普通、女性が酔っ払う姿って可愛らしいと思うんですけど、おじさんみたいな酔い方の方が面白いのでは?と思って、ドラマ『コントが始まる』でリアルな演技をして…。そこから思いの外沢山の誉め言葉をいただきました。(笑)でもプライベートではあんな酔い方はしません。…というより、そうでないことを祈っています。(笑)
作品の話に戻ります。社会の不条理を描く本作からは、考えさせられることが沢山ありました。
そうですね。私は、暗い過去や傷ついた心が原因で犯罪を起こしてしまう社会に対するやるせなさみたいなものを感じました。毎日誰かが犯罪を犯し逮捕されたという内容の報道がありますが、その犯罪を犯してしまった人たちにもきっと何かそうならざるを得なかった背景や事情があるのではないか…と考えるようになりましたし、罪を犯した人を一概に責めることに違和感を感じるようにもなりました。
もちろん犯罪を犯したことは社会のルールを破るという、絶対にあってはならないことです。でも、果たして他人から見える表面的な部分だけでその人の罪や過ちを責めるのは本当に正しいことなのだろうかと。そんなもっと奥の部分まで考えるようになりました。
この作品を通して、有村さん自身の考え方も変わったということですね。
はい。みんなそれぞれ他人には見えない事情がある。例えば、すごく明るい子がいたとして、周りがみんな「本当に明るくていい子だよね。」と思っていても、もしかしたらその子は何かを隠すために明るく振舞っているのかもしれない、とか…人の背景とか抱えているモノを想像する事が増えましたね。
その中で、有村さんが考える理想の社会の在り方とは?
罪を犯すことを肯定する事はありませんが、一度過ちを犯してしまって更生したいと考えている人にもっと温かい社会が理想です。変わろうとしている人たちを周りが潰す権利は無いと思いますし、何かと裁こうとする今の世の中の冷たさみたいなものが無くなれば良いなと思います。
本作のひとつのテーマでもありますが、「信じる」ということも、これからの社会の大切な要素かもしれませんね。
そうですね。“信じる”という行為は、人間が生きる上で欠かせないことだとも思うんです。なぜなら、誰かが自分に向けて発してくれる言葉そのものであったり、その言葉から得られる学びや感動であったり…そういったものを信じる事で、私自身ここまで生きてこられたと思っているので。互いが互いを信じることができる、素敵な世の中が来れば良いなと思います。
映画『前科者』は過ちを犯した人物の更生する姿を描いていますが、有村さんはご自身の失敗や後悔した出来事を糧に成長されたご経験はありますか。
いっぱいあります。特にお仕事に関してはたくさん。オーディションも散々落ちましたし、学生の時に女優というお仕事を始めた時から失敗する度に大人の方から叱られて色々なことに気付きました。マネージャーさんとも夜中2.3時ぐらいまで毎日話し合う期間もあったり、一筋縄ではいかないなと思いながら葛藤していました。とことん自分のダメな部分に向き合ってくれる事務所の方たちがいてくれて、今の自分があります。
お仕事での失敗を繰り返しながら成長されてきたとのことですが、そもそも有村さんが芸能界入りしようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
中学生の時、学園物ドラマがとても流行っていて、そのドラマの中で演技をする同世代の俳優さんたちに憧れたのがきっかけです。自分がその世界で芝居をしたらどんな感じになるんだろうっていう興味もありました。それがただの憧れや興味だけで終わらずに、オーディション雑誌を買って色んな事務所について自分なりに調べてという行動に繋がって…今に至ります。