姉の死を契機に10代の頃に写真家としてのキャリアをスタートさせたナン・ゴールディン。彼女は自分自身や家族、そして友人たちをとらえたポートレートのほか、薬物、セクシュアリティ、暴力、HIV/AIDS など時代性が反映された作品で知られる。1986年に出版された写真集『The Ballad Of Sexual Dependency(性的依存のバラード)』や、YMOの3人のニューヨークでの日常を収めた写真集『NOT YMO』などを手掛けている。
ゴールディンは手術を受けた際にオピオイド系の鎮痛剤オキシコンチンを投与されたのをきっかけに中毒となり、生死の境をさまよった。その後復帰したゴールディンは、オキシコンチンを販売しているのがパーデュー・ファーマ社であることや、その背景に会社を所有するサックラー家がいることを知る。彼女は2017年に支援団体「P.A.I.N.」を創設すると、アート界における自身の知名度を活かし、他者の苦しみから利益を得る強力な勢力と戦いはじめる。
映画『ALL THE BEAUTY AND THE BLOODSHED(原題)』は、写真家、活動家として知られるナン・ゴールディンの人生とキャリア、そして大富豪サックラー家がオーナーを務める製薬会社パーデュー・ファーマ社の医療用麻薬オピオイド蔓延の責任を問う活動を追ったドキュメンタリー。監督はローラ・ポイトラス。第79回ヴェネツィア国際映画祭では、最高賞にあたる金獅子賞を受賞。また、第95回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞へノミネートを果たした。