東京の大学に進学した杜崎拓(もりさき たく)は、吉祥寺駅の反対側ホームにある人影を見た。中央線下り列車に姿を消したその人影は確かに武藤里伽子(むとう りかこ)に見えた。だが里伽子は高知の大学に行ったのではなかったのか。高知へと向かう飛行機の中で、拓の思いは自然と里伽子と出会ったあの2年前の夏の日へと戻っていった。
里伽子は勉強もスポーツも万能の美人。その里伽子に、親友の松野が惹かれていることを知った拓の心境は複雑だった。拓にとって里伽子は親友の片思いの相手という、ただそれだけの存在だった。それだけで終わるはずだった。高校3年のハワイの修学旅行までは……。
『海がきこえる』は、月刊「アニメージュ」で連載された氷室冴子の原作小説を、スタジオジブリの若手スタッフが中心となって長編アニメーション化した作品。1993年にテレビスペシャルとして放映された。物語の舞台は高知と東京。10代の終わりが近づく若者たち3人の青春模様をみずみずしく描く。監督は『きまぐれオレンジ★ロード あの日にかえりたい』『ここはグリーン・ウッド』などの青春劇を手がけた望月智充。『海がきこえる』原作小説の挿画も担当していた近藤勝也が作画監督を務めている。