展覧会「蔡國強 宇宙遊 ─〈原初火球〉から始まる」が、東京・六本木の国立新美術館にて、2023年6月29日(木)から8月21日(月)まで開催される。なお、本展は国立新美術館とサンローラン(Saint Laurent)の共催による。

蔡國強 - 火薬を用いた作品を手掛けるアーティスト

蔡國強(ツァイ グオチャン／さい こっきょう)は、東洋古来の思想や宇宙観、科学技術などへの関心を背景に、火薬を用いた作品を手がけてきた現代美術家だ。神話的・人類学的で壮大な世界観を表現した火薬のドローイングやインスタレーション、屋外爆発プロジェクトなどは、国際的に高く評価されてきた。

1957年に中国の福建省泉州に生まれ、86年末に日本に移住した蔡は、95年に渡米するまでの約9年間、火薬の爆発による絵画を開拓。蔡にとって重要な展覧会となったのが、91年に開催された個展「原初火球 The Project for Projects」である。展示の中心となった同名のインスタレーションは、火薬で描いた7つの屏風ドローイングが放射状に広がるよう配置された作品だ。これは、宇宙物理学と老子の宇宙起源論に対する蔡の関心を反映しており、宇宙の始まりを表現するものであった。

蔡國強のビッグバン「原初火球」を軸に作品を紹介

蔡の大規模個展「蔡國強 宇宙遊 ─〈原初火球〉から始まる」では、約30年前に開催された展覧会「原初火球」を、蔡の芸術における「ビッグバン」の原点として捉え、その背景と今日に至るまでの展開を紹介。国内の国公立美術館に所蔵される作品と、日本初公開となる新作を含む作家所有の約50件の作品を一堂に集め、展示室全体をあたかもひとつのインスタレーションであるかのように展示する。

「原初火球」を再現

広々とした展示空間の中央部では、蔡の歴史的なインスタレーション「原初火球」を再現。蔡は、屏風仕立ての火薬ドローイング7隻を放射状に並べた同作において、宇宙物理学の「原始火球」に、老子の「有物混成先天地生(物ありて混成し、天地に先んじて生ず)」という宇宙起源論の理解を重ねている。本展では、ガラスと鏡を使用した新作の火薬絵画3点を含めつつ、「原初火球」の大規模インスタレーションを展開する。火薬の織りなすダイナミックな質感や色彩に注目だ。

LEDを用いた《未知との遭遇》を展示

また、「原初火球」と隣接して、LEDを用いた作品《未知との遭遇》を展示。2019年に蔡は、古代文明の中心地のひとつであり、約500年前にスペイン人が入植したメキシコのさまざまな文化と宇宙観の遭遇を、巨大な花火塔によって表した《未知との遭遇─メキシコのための宇宙プロジェクト》を発表しており、2021年にはこれをキネティック・ライト・インスタレーションとして展示している。

本展では、国立新美術館の展示空間に合わせて、水平に広がる「宇宙のジャングル」として《未知との遭遇》を展開。キラキラと点滅したり、カラフルに色が変わったり、炎が燃え上がるように赤い光が点灯したりと刻一刻と表情を変えながら、宇宙にまつわる古今東西の様々なイメージをLEDで表現している。銀河やワームホール、宇宙船、アインシュタインとホーキング、原始人と宇宙人、UFO、空中の天使など、様々なモチーフが点滅し、周囲を囲む作品たちを照らし出すスペクタクルなインスタレーションだ。

蔡國強の創作と思考をたどる

これら「原初火球」と《未知との遭遇》を中心に、会場では、蔡の活動における各時期に制作された作品を展示。宇宙と見えない世界との対話を軸に、作家として歩めはじめた中国時代、芸術家としての重要な形成期となった日本時代、そしてアメリカや世界を舞台に活躍する現代に至る、蔡の創作活動と思考をたどってゆく。

展示会場内奥を大きく飾る《歴史の足跡》のためのドローイングや、ベルリンの壁崩壊から着想を得て、建設と解体の循環や過去から未来への関連に思いを馳せた《移動している1キロメートルのベルリンの壁：ベルリン観光プロジェクト》、火薬、ガラス、鏡を用いて壮大なスケールの銀河を描いた《銀河で氷戯》など、宇宙への憧れを様々な形で表現してきた蔡國強の軌跡を辿ることができる。