ジョルジオ アルマーニ(Giorgio Armani)の2024年秋冬メンズコレクションが、イタリアのミラノにて発表された。
冬のミラノには、しばしば深い霧が立ち込める。細かな水の粒子が浮かび、震え、空気を流れると、人も、建物も、陽の光すらもぼかされて、柔らかな階調を織りなす。ふと、20代前半から30代をイタリアで過ごした随筆家・須賀敦子は、しばしば「灰色の霧に濡れる」という言葉を使っていて、そう、霧の風景はどこか落ち着いた、灰色のヴェールを被っているのだ。
グレーからブラックにかけて、豊かな階調に織りなされる今季のジョルジオ アルマーニは、だから、灰色の霧に濡れたような柔らかな気品を示している。柔らかいというのは、まずシルエットについていえる。たとえば、シングルブレストやダブルブレスト、ノッチドラペルやピークドラペル、ノーカラーと、多様に展開されるテーラリングは、端正な仕立てに基づきつつもシルエットはややワイドで、あくまでリラクシングな雰囲気に包まれている。
こうしたクラシカルなアウターやシャツと合わせるのが、リラクシングなパンツだ。たとえばカーゴパンツは、決して無骨に過ぎるのではなく、ワイドシルエットでありながらもディテールは抑え、クラシカルなテーラリングと調和するよう抑制された雰囲気に仕上げられている。柔らかくも厳しさを示すテーラードジャケットとともに、パンツはボリュームのある曲線を描くことで、心地よいコントラストを引き出した。
素材もまた、クラシカルでありながらも柔らかな温かみを示している。その筆頭に挙げるべきは、ツイードだろう。テーラードジャケットやステンカラーコートはもちろん、スタンドカラージャケット、ジレやスラックスまで、絶妙な陰影が柔らかな色調を生みだすツイードが広く用いられていることが見てとれる。
霧がものごとの姿を、色合いを柔らかくぼかすように、このコレクションでは相異なるエッセンスが繊細なグラデーションの中に引き伸ばされているのだ。それは、カラーにも言える。濃淡さまざまなグレーから、随所に挟まれるブルー、ベルベットが艶めかしく光るブラックまで、さながら昼と夜の風景を繋ぐように、柔らかく繊細なグラデーションが描きだされているように思われる。