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岩井俊二 - 過去と「今」を見つめて

映画『リップヴァンウィンクルの花嫁』をはじめ、作品の中で、デジタルについて積極的に取り入れている印象です。どのように感性を磨き続けていますか?

ことさらガジェットが得意ということはないですが、仕事で使っている関係で、自然と触れているのかもしれません。また、時代考証をする際にスマートフォンやインターネットの変化が激しいので注意しているのもあるかもしれませんね。例えば、『花とアリス殺人事件』という作品は、『花とアリス』という作品の前日譚にあたるので、花とアリスより前の生活にしないといけない。だからスマホもだせないし、携帯電話もガラケーのようなものしか出せなかったです。

自分の感覚だと音楽やファッションはこの20年ほとんど変わっていないです。その前の20年の変化と比べると今の音楽やファッションはクラシックかというか、安定期に入ったように見えます。自分の青春期に体験した洋服や音楽の変化が、今はスマートフォン、デジタルガジェットの激しい変化に取って代わったかのように感じますね。今を描くということは今というフィルターを通して描く必要があるので、変化を感じているのかもしれません。

映画『リップヴァンウィンクルの花嫁』監督・岩井俊二&主演・黒木華にインタビュー | 写真

監督にとって「今」とは大事ですか?

映画監督は、どうしても今と向かいあっていないといけないという宿命があります。題材にもよると思うけど、今を描かないといけない時に、今がよくわからないから、設定を20年前にしますっていうのはないですよね。20年前の題材の話を描くから、時代考証として、20年前を考証して作るのは当然ですが、今が苦手だから設定をかえようとするのは違います。

同様に、若い人を描くにあたり、若い人のことわからないから、ってことになったらもうその世代の作品が作れません。楽なのは、自分と同じ50代を描くのが見てきて知っていて、わかりやすくて一番描けるゾーンなのかもしれませんが、そこに甘えていてもしょうがない。どの世代もとれないといけないと思いますね。

今と向き合うことの苦労はありますか?

そうはいっても、当節ずいぶん経ってしまい、ともすると 、肝心なところを忘れていると思うこともあります。あるものを見て、思い出して、ずい分たっているのだな…って、忘れていることも増えてきたのだねって思います。

例えば、藤子不二雄の世界。ソウルフレンドが自然に隣にいて、いないと生きていけないような話が多い。子供時代に、友人や人形、おもちゃなど形は違えど、身近なところにそういうソウルフレンドがいた一時を、子供時代に誰しもが過ごしたと思います。

でも今ドラえもん見ていてもそういう気持ちは出てこないのです。意外と全然違うものを見た時に、「ああ、この感覚ドラえもんと一緒じゃん。藤子不二雄が描き続けた世界ってこれだったんだ。」って感じて、こういう感覚随分忘れたんだなと思うことがありますね。

映画『リップヴァンウィンクルの花嫁』監督・岩井俊二&主演・黒木華にインタビュー | 写真

本作品のきっかけにもなった、3.11が日本に与えた影響をどう思われていますか?

一言で表せば、人間らしい国になってきたと感じます。3.11前は、変なところもいっぱいあるけど、外観は立派で、非の打ち所が一つもない、自分たちがここにいることを疑ってもいないし、疑問に思っていない。日本は、そういう頑固で、自分たちを疑っていない国だと思っていました。映画の題材にもならないし、正直、あんまり面白い国だとは思えなかった。

決して立派な国であったわけではないし、偏見や自分勝手な面をみんな持っていたはずです。「だよね。」、「ですよね。」で片付くわけはないのに、押しとどめていた。空気が読めない奴を排除するみたいな、あたかも全員が同じで、あたかもわからないほうがおかしいみたいな感覚が一昔前にあったのかなと思う。その国が怪我をおった。そうすると、様々な人間模様が見えてきます。やっとどこかで人間らしい国になってきたのかもしれないという気がする。そこに自分が描けるものがやっとでてきたというのが3.11以降に感じていることです。

作品の制作にも影響を与えましたか?

描けるものはでてきたけど、難しさはあります。怪我が治るのには、ある一定の期間が必要で30年くらいの長いスパンがかかると思います。一方で、地震や津波の脅威は終わってないし、もしかしたら明日来てもおかしくないと思います。ぴりぴりしているなかで日常を過ごさないといけない。そういう環境で作品を作るのは僕らにしてみれば、慣れていないですよね。

僕らはどちらかというと戦争のない平和な安定期、高度成長後の日本に生まれ育って、そこでものづくりをしていたわけですけど、この違う環境になってどういうものづくりをしていかないといけないかは、自分の中ですぐに出る答えではないです。

4年がたった今でも、以前のようには戻れないと思いますか? 

元に戻れたのかと問われるとそれはまた別の話です。一命はとりとめたけど、重傷は負ったわけです。その後の日本中の色々な出来事は、3.11に由来しているような気がします。

だから、様々な出来事にたいして、みんな是非を論じにいくのですけど、そこから先は思想的なことよりも違う解決法が出てくるのではないでしょうか。今すぐは無理でも、将来にかけて変わっていくのではないでしょうか。

映画『リップヴァンウィンクルの花嫁』監督・岩井俊二&主演・黒木華にインタビュー | 写真

映画『リップヴァンウィンクルの花嫁』について

【ストーリー】
舞台は東京。派遣教員の皆川七海(黒木)はSNSで知り合った鉄也と結婚するが、結婚式の代理出席をなんでも屋の安室(綾野)に依頼する。新婚早々、鉄也の浮気が発覚すると、義母・カヤ子から逆に浮気の罪をかぶせられ、家を追い出される。苦境に立たされた七海に安室は奇妙なバイトを次々斡旋する。最初はあの代理出席のバイト。次は月100万円も稼げる住み込みのメイドだった。破天荒で自由なメイド仲間の里中真白(Cocco)に七海は好感を持つ。真白は体調が優れず、日に日に痩せていくが、仕事への情熱と浪費癖は衰えない。ある日、真白はウェディングドレスを買いたいと言い出す。

【詳細】
リップヴァンウィンクルの花嫁
公開日:2016年3月26日(土)
監督・脚本:岩井俊二    
出演:黒木華、綾野剛、Cocco、原日出子、地曵豪、毬谷友子、和田聰宏、佐生有語    夏目ナナ、金田明夫、りりィ    
原作:岩井俊二『リップヴァンウィンクルの花嫁』 (文藝春秋刊)
制作プロダクション ロックウェルアイズ

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