映画『おくりびと』で日本映画史上初のアカデミー賞外国語映画賞を受賞。自身も日本アカデミー賞主演男優賞・ブルーリボン賞主演男優賞に輝いた。それ以前にも、NHK大河ドラマ『徳川慶喜』『坂の上の雲』と主演を務め、日本の映画・映像界で大きな存在感を放っていた。
しかし、本木雅弘の芸能人生は俳優から始まっていない。アイドルグループからのスタートだった。役者への転身を遂げ、俳優として35年のキャリアを積んだ本木にいま思うことを問う。
簡単にいうと、役者は‟高級なもの”だと考えていました。賢くないとできない。自分のような偽者からは憧れもありましたね。
でも、アッバス・キアロスタミ監督の作品だとか、色々な映画に触れていく中で、素人の人たちを適材適所に使ってリアルさや面白さを魅せているものもあり、映画表現の幅広さと深さを知りました。要はその役との融合が上手くいっていれば、素人でもプロでも関係ないのではと思うようになったんですね。
肝心なのは役との出会い。決して、ただただ演じたいという意識や、自分なりのメソットは通用するものではないという風に考えています。
もちろん、時には技術的なキャリアを必要とする場面もあると思います。
でも、どこかで磨ききらないでいることの無防備さや危うさを残していることが、大事なのではないかとも思う自分がいて。いい意味での素人判断的なものでお芝居をした方が、画面からはみ出すこともできるんじゃないかと感じています。
でも同時に、今でも、役者という職業を自ら選んだという意識はないんです。心では漂流しながらも、結局ここにいるというのが自分の中での実感。今や業界のキャリアが35年になってしまったので、もう他の職種への浮気はできない(笑)、これでいくしかないんだろうなって思っています。
本音をいえば、私は西川監督のように人間や人間関係にそこまで興味を持っていないと思います。流れに任せてこの仕事をさせていただいたがために(笑)、人間関係に首を突っ込まなきゃいけないし、それに伴って、自分と向き合わなきゃいけない時間が増えてしまった。
でもそうでなければ、今の自分はなかったと思います。大げさですが、例えば屋久島の大きな杉の根本に座って、毎日、木のエネルギーを感じるだけで十分生きていると思えるタイプというか。自分にも人にも期待していない。むしろ、気持ちが通じないものに求めた方が気が楽、そういう感覚をどこかで持っているので。
現実的にはそうならずに引き留めてもらえたのがこの仕事。この業界にいなかったら結婚もしていかなったかもしれません(笑)。
ただただ、不器用な自分を収拾、コントロールすることに自信がない。なので、逃げ場があるならどんどん逃げちゃうタイプなんじゃないかな?と、(自分自身を)捉えているだけです。
体験してからこそ得られるものを大切にしていますし、醍醐味だと思いますね。
例えば、旅行一つとっても、今はもうガイドブックで隅々まで紹介されていて、それを確認していくような旅になっている。それだけではなくて、その場所に行き、知らない路地に迷ったりした方が、面白いものを発見したり、思わぬことを感じたりすることもあるでしょう?それって、現場体験でしかないんですよね。
役者の仕事をみても、脚本、監督、役との出会い。そして、先の読めない、でも制限がある撮影現場という環境でしか得られない感情や学びがあると思います。でもそれは、映画の面白さでもあり、働くこと、人と関わるということすべてに通ずるものだと考えています。
【映画情報】
『永い言い訳』
公開日:2016年10月14日(金)
原作:『永い言い訳』(文藝春秋刊)
原作:西川美和
脚本・監督:西川美和
出演:本木雅弘、竹原ピストル、藤田健心、白鳥玉季、堀内敬子、池松壮亮、黒木華、山田真歩、深津絵里