——重要なアーカイブはどれも非常に興味深かったです。スタッフはインターネット上のデータベースでアーカイブをチェック出来るとの事ですが、ARLにも訪ねてくるのですか?
F:はい、実際にここにも訪ねてきますよ。6,500万点ある作品のうち、100万点しか写真に撮影していませんので。彼らが「アートワークをいくつか見たい。このアニメーターか、このアーティストの作品を」とやって来たら、手袋をはめて、そのアートワークを取り扱います。
中には、アニメーション・スタジオ以外のスタッフもいます。アニメーション・スタジオのプロジェクトからインスピレーションを得ているものであれば、コンシューマ・プロダクツ(消費者向け製品)の人たちも、アートワークを見ることが出来ます。そして、洋服のラインやおもちゃのライン、パッケージ、家具、文房具など、あらゆることを考えるのです。ほかにも、ディズニーのテーマパークのどこかでライドやアトラクション、ショーを担当している人もいますし、ホーム・エンターテインメントの人々は、自分たちのドキュメンタリーやギャラリー、ゲーム、付録などのために、ここにやって来ます。とにかく、ここで保管しているアートワークは様々な利用の仕方をされるわけです。
——この施設がなければ生まれなかった作品はありますか?
F:もしかしたら完成していなかった映画もあるでしょう。少なくとも、この施設無しで映画を作るのは、ずっと大変になっていると思います。制作スタッフは誰もがとてもクリエイティブですが、この施設は、彼らの仕事をよりやりやすく出来るよう手助けする場所なんです。
——ここに残された数々のディズニーの歴史は、今後どんな価値を持つと思いますか?
F:ディズニー・アニメーションやこれまでの遺産のことを考えたら、その価値は私の理解を超えていますね。人々がやってきたことの記録として、でさえです。例えばここを訪れたアーティストの一人が、たまたま見たアートワークによって「あ!今、自分がやりたいことが分かった」と気づけたとしたら。その価値というのは、一体どれほど大きいものでしょう?
彼らはクリエイティブ面で立ち往生していたかもしれないし、自分たちが進みたい方向がはっきりしていなかったかもしれません。でも、彼らは決してそれをコピーしたいというわけじゃないんです。そのアートワーク自体が、彼らにアイディアを与えるのです。つまり、クリエイティブなバッテリーをリチャージするようなものです。だからそこには、リアルで途方も無い価値があります。私たちの遺産の記録というだけでなく、時には問題を解決してくれることもあるし、何より創作のインスピレーション源にもなっているのだから。
——最後に、この施設で働くことの魅力を教えてください。
F:そうですね...。誰がどんなアートを見たいと頼んでくるかにもよりますが、どんな日でも、20年、いや50年間、誰も見ていなかったものを見つけられるかもしれないというワクワク感が得られることですね。倉庫に保管されているアートワークを開けて見せるんです。そしてそれを見て、お互いに「おお、ワーオ!」となるんです。
自分自身が絵を描けたらいいのにと思うこともありますが、残念ながら私はアーティストではありません。でも、ここでは、コンセプト・アート、ストーリー・スケッチ・アートなど、アニメーターによるすべてのアートワークを見ることが出来ます。彼らのドローイングやアート、絵を直に見ることが出来るんです。そして、毎回箱を開ける度に新しい発見があります。そういったちょっとした驚きが、いつも私を前に進ませてくれるのです。
人々がここに来る時、彼らは本当にアートに敬意を払います。彼らの目が、過去のアートワークを見て、大きく見開くのを見てとれるんです。自分も彼らを通して、そういった感動を共有しているわけです。そして、彼らが何かヒントを発見出来た時、こちらも良い気持ちになれるんです。彼らが、「そうか!自分がやりたいことがわかった。これを見て!」と喜ぶ瞬間にね。こんな仕事は、きっと他にないでしょうね。
今回のARL訪問に合わせて、「ウォルト・ディズニー・スタジオ」の取材と、ディズニー長編アニメーション最新作『モアナと伝説の海』制作スタッフへのインタビューも敢行。是非、下記関連記事も本記事を合わせてチェックしてほしい。
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「ウォルト・ディズニー・スタジオ」を訪問 - 名作アニメが生まれる映画の製作拠点をレポート
『モアナと伝説の海』
2017年6月28日(水)先行デジタル配信開始
2017年7月5日(水) MovieNEX(4,000円+税) 新発売
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