映画『ゴッホ〜最期の手紙〜』が、2017年11月3日(金・祝)にTOHOシネマズ六本木ほか全国にて順次公開される。
フィンセント・ファン・ゴッホは、オランダ生まれの画家。日本の浮世絵にも関心を示し、パリ、アルル、オーヴェル=シュル=オワーズとフランス国内を旅する中で、≪ひまわり≫、≪星月夜≫、≪日没の種まく人≫など数々の名作を生み出していった人物だ。
しかし、ゴッホの絵画が評価されたのは死後。生前はたった1枚の絵しか売れず、耳切り事件や精神病院送りなどといったスキャンダルから“狂人”といったレッテルを貼られ、孤独な人生を歩んでいた。
これまでゴッホを主人公とした伝記映画は優に100本以上制作されているが、映画『ゴッホ〜最期の手紙〜』は、天才画家の死の謎について迫る、新しい切り口の映像作品。
物語のキーとなるのは、4つ下の弟・テオへ宛てた手紙だ。芸術家を目指すべきだとゴッホにアートの道を勧め、画材を含め制作活動を支えたテオ。彼への想いを綴った一枚の手紙をヒントに、ゴッホの死の真相を紐解いていく。
映画『ゴッホ〜最期の手紙〜』の面白さは、世界で初めて全編“動く油絵”で構成されていること。俳優たちが役を演じる実写映画を撮影し、捉えた映像を特別なシステムによってキャンバスへと投影。このデータをもとに、125名の画家たちが筆を取り“ゴッホタッチ”の油絵へと転換させた。
1秒間を作るには12枚の油絵を要し、作品全体を完成させるには62,450枚もの絵画が必要だった。「我々は自分たちの絵に語らせることしかできないのだ」というゴッホの言葉への敬意を示すため、さらに伝記的な回想シーンにはモノクロの水彩画が用意され、気の遠くなる製作過程を踏んで作品を完成させた。
物語は、青年アルマンが郵便配達員である父ジョゼフから一通の手紙を受け取るところから始まる。ジョゼフは、ゴッホが弟・テオに宛てた手紙を長い間配達していたが、生前最後に送った手紙だけを渡せずにいた。
この手紙を託された青年アルマンは、テオを尋ねる旅を始める。ゴッホの知人を尋ね歩き、アルルからパリへ、そしてゴッホが最後の日々を過ごしたオーヴェル=シュル=オワーズへと渡る。
ゴッホの知人と出会う度に浮かぶのは、「37歳という若さで、彼はなぜ命を絶たなければならかったのか?彼は本当に自分の腹を銃で打ち自殺したのか?」という疑問。心を激しく揺さぶられたアルマンは、死の真相を知るために動き出す。
油絵の原型となった実写版には、豪華俳優陣が集結。主人公アルマン・ルーランを『ノア 約束の舟』のダグラス・ブースが、ゴッホをロベルト・グラチークが演じる。『アリス・イン・ワンダーランド』のエレノア・トムリンソン、『つぐない』『ラブリーボーン』のシアーシャ・ローナン、ジェローム・フリン、クリス・オダウドなども出演し、スリリングな謎解き物語を繰り広げていく。
吹き替え版では、山田孝之&イッセー尾形が声優を担当。主人公アルマン・ルーラン役には、『闇金ウシジマくん』シリーズや、『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』など話題作に出演している俳優・山田孝之。
父・ジョゼフは『沈黙-サイレンス-』のイッセー尾形が担当する。彼は自作の指人形劇でファン・ゴッホとその友人たちを一人芝居で演じており、ルーラン役に関して「トボけた味の愛すべきキャラクター。映画では彼が物語の原動力になります。」とコメントしている。
主人公アルマン・ルーランの吹き替えを担当した俳優・山田孝之にインタビューを実施。前代未踏とも言える制作過程から生まれた、映画『ゴッホ〜最期の手紙〜』に対する思いについて話を聞いた。
Q.映画『ゴッホ〜最期の手紙〜』の面白さはどこでしょうか。
映画の作り方としては、とても挑戦的。何よりもまず、よくやったなって思いました。実写で映像を撮って、その声や表情をもとに、100人以上の人たちがゴッホタッチで62,450枚の絵を描く。出来上がったアニメーションの吹替版用に、さらに声をあてて…って、めちゃくちゃお金と労力がかかるし、途中で何人が投げ出すかっていうプランを通したのはすごいなと思います。
映画の作り方ももちろんですが、着眼点も面白い。ゴッホの死に関して紐解いていくというミステリー、そこに着目したところも新しいと思いますね。
Q.最近は、様々な作品で声優を担当されていらっしゃいますが、映画『ゴッホ〜最期の手紙〜』に携わったきっかけは?
実は、公開するよりずっと前に、Facebookに制作過程の記事が流れて来て、知っていたんです。その時、すごく面白い映画だなって思っていて。時間が経って日本に上陸するって決まった時に、吹き替え版を作るからって話をいただいたんです。
Q.出来上がった作品を観ていかがでしたか。
字幕版と吹替版、どっちも見て欲しい。というのも、僕は(吹替版に)若干違和感を感じたんです。
映画『ゴッホ〜最期の手紙〜』は、役者さんが芝居をしているのをカメラに撮って、その映像をもとに絵を描いているので、出来上がったアニメーションは、芝居の仕方、間の取り方、喋り方、全てが自然なんですよね。そこに(吹替用の)声をあてるってなると、いい意味での不自然さがあって。
日本の方たちって、昔からアニメとかで声優さんたちの吹き替えに慣れていますよね。プロの声優さんは、抑揚をつけるんです。わかりやすく例えると、テレビの芝居と舞台の芝居の違いのような。
今回は、僕とイッセー尾形さん以外皆プロの声優さんたち。なので、そのやり方で皆さん声を当てていくわけです。そうすると、僕の声はちょっと浮いてしまうなって、観ていて正直思いました。心残りはないですが、日本での吹替の難しさを感じました。
Q.吹替版の理想形はどんなものでしょうか。
(吹替を担当する時)いつも課題となるんです。過去に、海外の実写映画に日本語吹き替えを合わせた時があって。僕が声を合わせる前は、俳優さんたちがみんな芝居を普通にやっているので、吹替で抑揚をつけるのが嫌だったんです。それで自然なトーンで会話を撮ったら、すごく浮いちゃって。逆に、棒読みに聞こえちゃうんですよね。
最近は、ナレーションをやったり、アニメ、ゲームと色々な声の仕事をやっているので、従来の吹替と僕の理想の中間を目指すように意識しています。
2017年10月24日(火)から2018年1月8日(月・祝)まで、上野・東京都美術館にて展覧会「ゴッホ展 巡りゆく日本の夢」も開催。浮世絵をはじめ、日本美術に影響を受けたゴッホを多角的な視点で紐解く展示となっている。“芸術の秋”にゴッホの世界観を体感してみては。
なお本作は、日本時間の1月23日 に発表された第90回アカデミー賞長編アニメ映画賞にノミネートされた。さらに、これまで2017年アヌシー国際アニメーション映画祭で観客賞を、2018年度ヨーロッパ映画 賞で長編アニメーション賞を受賞している。