作品に思いを込めて、きちんと物語を構成しているのに、なぜ素人をキャスティングするのですか。経験ある俳優に任せた方が、自分の作りたい形が出来上がるのではないでしょうか。
正直な話をすると、僕がフレッシュな顔ぶれを大きなスクリーンで観たい気持ちが一番大きいんだと思います。
例えば、貧困家庭のシングルマザーのようにキャラクターの濃い役。これをベテラン俳優や他の作品に出ている役者が演じると、どうしても過去の役柄と重なってしまう。観客はその役にすんなり入っていけない可能性がありますし、場合によっては「この人がこの役…?」って信じられないかもしれない。でも、フレッシュな人が演じるとそれはない。観客はスッと登場人物に入っていけますし、作品自体も多面的になるメリットを感じます。
他の人の作品を見るときも、フレッシュなキャスティングに好感を持ちますか?
もちろん。スーパーヒーローものなどいわゆる「商業作品」と呼ばれる映画に出演する役者さんは、もちろん素晴らしい演技を観せてくれるとは思うのですが、ワクワクはしないんですよね。実は、本作では6人の映画役者が並んだ映画用ビルボードを劇中で登場させて、僕のキャスティングに対するこういった意見を反映させているんです。
そんな中でも、名優のウィレム・デフォーを迎えています。彼は『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』でアカデミー賞にノミネートされました。
ウィレムは、モーテルの管理人役。住む人々を見守る存在なのですが、彼が登場するシーンの多くは、演技経験のない俳優が相手。その中で、彼は自分を変身させることができるから、皆が作る空気感に見事はまってくれた。色々な役者をミックスしてキャスティングしたからこそ、生まれた面白さだと思います。ウィレムと仕事ができたのは、本当に幸運でした。
映画作りでショーン監督にとって重要なことは?
初めから終わりまで「新しい」という感覚。僕は革新的な作品、フレッシュなものの見方をしている作品が好き。作品を作るために、他の作品をコピーすることに全く興味がないので、いわゆる“雇われ監督”と呼ばれるような大型の商業作品を撮る映画監督とは、感覚がちょっと違うんだと思います。
ショーン・ベイカーの作品の面白さは、ユニークな映画の作り方にある。「僕らはいつも同じやり方で映画を始めます。この企画に参加したいかどうかを地元の人たちに尋ねるんです」と話す通り、物語の舞台=つまり現場をリサーチするところから始める。『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』はフロリダの舞台となっている場所で、色々な家庭の方に会って、「隠れホームレス」という存在を知ったところから始まっている。こうして約3年に渡ってリサーチ旅行を繰り返し、実際にモーテルにも何度も宿泊して構成を完成させた。
ショーン監督の名前を愛称にした「ベイカー・レインボー」と呼ばれる独特の色彩感覚。フロリダの青空、モーテルのピンクやパープルなど、35mmフィルムを使って捉えられた色鮮やかな世界も、『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』の魅力となっている。
安モーテル、子供の遊び場所となっている寂れたギフトショップの周辺、いっぱいいっぱいの母親。作品の中には厳しい現実がたくさん転がっているが、6歳の少女・ムーニーの視点から切り取りとり、その多彩な色彩により、作品全体にはワクワクとさせるムードも広がっている。
キャスティングも実験的なことが多く、ストリートキャスティング、ソーシャルメディアを使ったスカウトなども実施。映画『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』では、シングルマザー・ヘイリー役のブリア・ヴィネイトをインスタグラムで発掘。また、主人公ムーニーの友人役を、撮影現場近くの量販店で声をかけてオーディションに呼んだという。
6歳のムーニーと母親のヘイリーは家を失い、フロリダ・ディズニー・ワールドのすぐ外側にある安モーテルでその日暮らしの生活を送る。厳しい現実に苦しむも、ムーニーはモーテルに住む子供たちと冒険に満ちた毎日を過ごしていた。しかし、ある出来事がきっかけに、いつまでも続くと思っていたムーニーの夢のような日々に現実が影を落としていく。
『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』
公開日: 2018年5月12日(土) 新宿バルト9ほか全国ロードショー
監督:ショーン・ベイカー
脚本:ショーン・ベイカー、クリス・バーゴッチ
編集:ショーン・ベイカー
出演:ブルックリン・キンバリー・プリンス、ブリア・ヴィネイト、ウィレム・デフォー
配給:クロックワークス