映画『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』が、2018年5月12日(土)より全国公開される。メガホンをとるのは、全編iPhoneで撮影した『タンジェリン』('15)が記憶に新しい“鬼才”ショーン・ベイカー監督だ。
物語の舞台は、世界屈指の観光地「ウォルト・ディズニー・ワールド・リゾート」があるアメリカ・フロリダ。鮮やかなブルーの空、カラフルなギフトショップ。どこか現実離れした “夢の国”の近くには、その煌びやかさとは裏腹に、普通のアパートに入居することができない人々が暮らす安モーテル街があった。
主人公は、その日暮らしを送る6歳の少女・ムーニーとシングルマザーのヘイリー。一泊約40米ドルで宿泊可能な安モーテルは、永住の住まいを確保できない彼女たちにとって避難所のような存在だ。職なし、家なしの状態で必死に生きる“たった2人の家族”を中心に、ひと夏の物語が描かれる。
ショーン・ベイカーは、トランスジェンダーの女性たちを全編iPhoneで撮影した『タンジェリン』で、サンフランシスコ映画批評家協会賞・脚本賞をはじめ、22受賞33ノミネートを果たした才能あふれるクリエーターだ。
ショーンがデビュー当時から据えるのは、社会の片隅で生きる人々。過去には、違法移民の中国人、路上でブランドのコピー商品を売って生活している人物なども、題材として取り上げている。やや重たいと思われるトピックも「ベイカー・レインボー」と呼ばれる独特の色彩感覚を取り入れるなどして、エンターテイメントとしてのバランスをとっている。
日本公開に先駆け、ショーン・ベイカー監督が来日。“斬新なストーリーテーラー”との異名を持つほど、リアルな現実をドラマティックに描く彼に、作品製作のこだわりについて話を聞いた。
“夢の国”の近くの安モーテルを舞台に選んだ理由はなぜでしょう?
“皮肉な場所”ですよね。子供たちにとって、マジカルで幸せな場所といわれているテーマパークの真隣には、貧困で住む家がなく、モーテルに住まざるおえない子供たちがいる。“最高の夢の国”の近くで、子どもたちがカツカツの生活をさせられているという悲しい皮肉。これが同居しているところが印象的だったんです。
初めてこのエリアのことを知ったのは、共同で脚本を執筆し、製作を担当しているクリス・バゴーシュに、安モーテルに関する新聞記事を教えてもらってから。その後、彼からテーマパーク近くのハイウェイ脇で子どもたちがいたという話を聞いたんです。
そこからリサーチを始めたのでしょうか?
リサーチ旅行は、フロリダ州キシミーを中心にスタートさせました。そこで初めて、「隠れたホームレス」というアメリカの現実に触れました。永住できない人たちにとって安モーテルが最後の避難所となっている。これは、アメリカ全土で起きていると言われているのですけど、私自身は、ここで初めて触れたのを覚えています。
リサーチ旅行を通して様々な人に出会ったと思いますが、その中で母子家庭を中心キャラクターに決めた理由は?
色々な家庭の方にお会いして、まず「隠れホームレス」の中の41%が家族連れであることを知りました。そして、シングルファミリーとなると、そのほとんどが母親とその子供という家庭であることに気付いたんです。
もちろん世界的に考えても、シングルファミリーといえばシングルマザーというイメージが強いと思うのですが、アメリカでは片親しかいない場合、75%がシングルマザーなんです。それを無視できないなと思いました。
また、作品の舞台が「ウォルト・ディズニー・ワールド・リゾート」の近くってことを考えたときに、ディズニー作品は母親が不在であったり亡くなっていたり…そういう設定が多いなって。主人公がパーフェクトじゃない母親像というところも立地とリンクして、今回は母子家庭を物語に中心にしました。
監督がここで撮りたい、この人を撮りたいと思う決め手は何ですか?
ダイナミックなものがないといけない。キャラクターであれ、ロケーションであれ、何でも。もちろん映画は、作品によって入口が変わってくるので、そのダイナミックさのポイントは異なります。
前作の『タンジェリン』は、「ドーナツタイム」というドーナツ屋とロサンゼルスの交差点でどうしても撮影したいという気持ちがありました。今回は、ニュース記事から全てがスタートしていたので、記事で書かれたこのスポットでなくてはいけなかった。
ロケーションもキャラクターも何か強いものがないとダメですね。それが演劇と映画との違いだと思います。白い壁に役者さんが立っているだけでは、映画としては50%の完成度にしかなりませんから。
絶対ここで撮りたいと思わせた、フロリダ州キシミーの魅力は?
ビジュアル的にカラフルで面白い。作品に度々登場する国道・192号線は、すべてのお店がテーマパークのお客さんをターゲットに商売をしている。だからディズニー的なデザイン要素、色彩を取り入れているんです。なので、撮影現場とするには、視覚的にもユニークなスポットでした。
最高の撮影スポットを見つけ、3年ものリサーチ旅行を繰り返して、時間と手間をかけているのに、なぜドキュメンタリー作品として撮らず、さらに手間を加えたストーリータッチで作品を描くのでしょうか?
僕は、元々劇作家からスタートしているので、作品作りをする上で、物語を綴っていきたいという気持ちを大切にしています。フィクションで描くからこそ、より多くの人に届くと考える部分もあると思いますから。
物語性を持たせることで、映画にどんなものが生まれるのでしょうか。
映画は、観客にとって逃避させてくれる娯楽であると思うんです。僕は、社会問題に焦点を当てながらも娯楽としてのバランスを取りながら、映画を作りたいと考えています。僕が見る立場であっても、見終わった後に何かを考えさせてくれたり、ディスカッションしたくなるような作品が好き。
観ていただいた方には、映画『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』を通じて色々感じて欲しいけれども。個人的には「隠れたホームレス」という社会問題に光を当てたいという気持ちがあったので、物語を通して、そういうのが届いていればいい。娯楽的な側面がみなさんの心を捉えて、でも映画が終わった時には、色々と考えているようなそういう作品になっていたらいいなって思っています。