映画『斬、(ざん、)』が、2018年11月24日(土)よりユーロスペースほか全国ロードショー。池松壮亮を主演に、蒼井優をヒロインに迎え、塚本晋也監督が時代劇に初めて挑戦する。
舞台は、250年にわたり続いていた平和が崩れ、開国するか否かで大きく揺れ動いていた江戸末期。時代の波に翻弄されるひとりの浪人を主人公に、周りの人々との関わりを通して生と死の問題に迫る。
主演は、映画『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』『万引き家族』『君が君で君だ』『散り椿』など、話題作への出演が続いている池松壮亮だ。
1990年平成生まれの若き俳優だが、ハリウッド映画『ラストサムライ』で映画デビュー、出演作『万引き家族』でカンヌ国際映画祭パルムドール獲得と、世界的な活躍をみせている人物だ。映画『斬、』ではヴェネチア国際映画祭に参加。
そんな池松が、最新作『斬、』では、人を斬ることに苦悩する一人の侍、都築杢之進(もくのしん)を演じる。文武両道才気あふれる人物で、武士としての本分を果たしたいと思う一方、刀を抜くことに悩み苦しむ難しい役どころだ。
Q.杢之進役のオファーが来た時の心境は?
いまの自分にふさわしい役柄と思えたので「やります!」と一言、そこからスタートしました。大袈裟ではなく、自分はこの作品を、この役をやるために、これまで俳優を続けてきたと思わせてくれたんです。
俳優を続けてきてよかったと思わせてくれる出会いがあってこれまで続けてきてしまっているんですが、映画『斬、』はまさにそういう作品でした。
Q.「この役をやるために…」と思わせたポイントはどこですか。
杢之進は、過去にも未来にもイマジネーションを広げて、縦軸にも横軸にもものすごく広く想像力を広げられる人だと思うんです。しかし、その結果、自分の無力さに負けた人。
僕は、映画『斬、』は悼みについての映画だと思っています。杢之進を通して過去に起こったこと、未来に起こるかもしれないことを想像しました。これができていないとあの役は成立しないと思うんです。
Q.性別・年齢といった共通点はありますが、現代に生きる池松さんが江戸時代に生きる杢之進というキャラクターに入り込むのは難しいように感じるのですが。
割りと単純なことで、できることは想像することしかないんです。
例えばですが、「はい。明日から戦争に行ってきてください。」そう言われたときにどうなるのか…っていうのを想像する。江戸時代を想像すると聞くと、難しいように感じると思うのですが、現代だって同時多発的に様々なことが起きている。自分のいる世界以外のこと想像することは困難。
いまの世界じゃないと、映画『斬、』のような映画は作られない。そうあって欲しくないから、祈りを込めてこの映画が作られたと思うんです。
Q.いまの時代に時代劇として『斬、』を撮る意味とは?
現代劇だと直接的すぎて、実は映画の効果はなくなります。時代劇っていうだけで、エンターテイメント性が出るので、少し距離を置いたところから普遍的なもの、何より悼みについて描き出すことが大切なんじゃないかと。
Q.20代の池松さんが時代劇に携わる意味は何でしょう。
時代劇はよくも悪くもずっと必要とされているもので、日本独自の時代を描いているからこそ、時代劇を通らない俳優っていうのは、日本では考えられないと思います。
その中で、どういう時代劇が作られるべきなのか、未来にどういう時代劇を残していくべきか、現代の人々にどういう時代劇を伝えるべきなのか。それを難しいけど考えていくべきですよね。
Q.その答えは見つかりましたか。
映画『斬、』では、時代劇でありながらいまの時代の気分を汲み取ることができたと思っています。一つ、自分が持っていた時代劇への疑問にアンサーを出せたのではないかな?と思います。
Q.いまの時代の気分を汲み取るとは?
塚本監督は、杢之進という役に「現代の人が江戸に舞い降りたら…」という設定を設けているんです。それは、塚本監督が願いを込めて言っている言葉だとは思うんですけど、疑いととか不安とか、何かわからない、何か信じるものを見失った人。そういう観点から杢之進を見ると、このキャラクターを通して現代的な人物を描けたんじゃないかと思います。
実は僕自身、杢之進が願っている祈りみたいなものから、自分が20代に抱えてきたものとリンクするところを感じたんですよね。
漠然としているかもしれないですけど、杢之進という役に、自分の中の平成史を盛り込んだつもりです。撮影当時27歳だったので、27年間生きてきた中で見つけた祈りみたいのを込めたつもりです。
Q.池松さんは、どんな20代を過ごしてきたのでしょうか。
一言で言うと、すごく無力さを感じる時間でした。まだ20代なのでいまなお感じていることなのですが、やればやるほど、挑めば挑むほど、人ひとりの能力、映画の能力、どちらにも無力さを感じて。こんなはずじゃなかった…と思うことが多かったです。
Q.なぜ俳優を目指したのですか。
俳優の仕事は、10代から始めたのですが、その頃は全然好きじゃなかった。
僕は、小さい頃から野球選手にずっとなりたくて。今振り返るとなぜかわかりませんが、男なら野球選手かミュージシャンって思っていたんです。なので、俳優になりたいと思ったことは、一度たりともなかったんです。
Q.(笑)、なぜ野球選手への夢を諦め、俳優に?
野球に対して自分の能力を信じることができなくなってしまったから。
そのとき俳優の仕事をやっていたので、目の前にあるものを信じてみようって俳優業に進みました。
Q.いま、俳優は天職だと感じていますか。
全く。演じることでも、俳優という立場に関しても、自分の無力感を感じる一方で、天職だとは思えないです。
むしろ、やりたいことをすぐ見つけて、なりたいものになれている人ってイチロー選手くらいじゃないですか?(笑)
Q.つらいなかでも続けている理由は?
半分信じているからだと思います。俳優でやれること、そして僕自身の可能性を。この顔、この姿、この思考で生まれたことを一回信じてみようってことです。
Q.目指している役者像はありますか?
俳優を始めたころに「○○さんになりたい」って思ったら負けだと感じて、好きな俳優さん女優さんはたくさんいますけど、理想や憧れの人を作ろうとは思わなかった。俳優という仕事は、割とみんな生涯現役選手。みんなと同じフィールドで戦わなきゃいけないわけですし、一緒に肩を組んで行進しなくちゃいけないわけで。
なので、自分はそのときそのとき追い求める、いい俳優を目指しています。これからもそこを目指していくのだと思います。