庵野秀明監督の映画『シン・仮面ライダー』のメインキャスト、池松壮亮(主演)・浜辺美波・柄本佑にインタビューを実施。
映画『シン・仮面ライダー』は、石ノ森章太郎が手掛けた『仮面ライダー』の生誕50周年企画作品として、『シン・エヴァンゲリオン』シリーズの庵野秀明が脚本・監督を務めた話題作だ。自身も「仮面ライダー」の大ファンだったという庵野は、「孤高」「信頼」「継承」をキーワードに、オリジナル作品を現代へと昇華。今回はそんな壮大な物語のメインキャストを務める池松壮亮(主演)、浜辺美波、柄本佑にインタビューを実施した。
主人公・本郷猛/仮面ライダー:池松壮亮
ヒロイン・緑川ルリ子:浜辺美波
一文字隼人/仮面ライダー第2号 :柄本佑
作品が完成した今、まず庵野監督が描く『シン・仮面ライダー』ならではの魅力を教えてください。
池松:ひとえに庵野秀明監督作品であることだと思います。庵野さんらしい、庵野さんにしかない仮面ライダーになりました。オリジナルをしっかりと踏襲しながらも、現代性や普遍性にアプローチしていて、2時間という時間の中にあらゆるものがパンパンに凝縮しています。圧倒的なアクションシーンと、様々な情報量で魅せられ、幸福という人類の問いをテーマにしながら、人類のレガシーの継承が描かれています。
柄本:分かりやすく言えば、僕はビジュアルが本当に好きですね。特に池松さんが変身した仮面ライダーの姿とか、究極形態のパーフェクトなフォルムなんですよ。オリジナルから現代風にそぎ落として、より洗練された姿に仕上げているというか。大人にもグッとくるものがあります。
大人になったからこそ楽しめる要素があるんですね。ちなみに、皆さんの子供時代には「仮面ライダー」にまつわるエピソードもあるのでしょうか?
池松:これは浜辺さんが良いやつ持っています。
浜辺:そうですね!私は、中学生くらいの時に一番「仮面ライダー」にハマっていました。「オーズ/OOO」から「ウィザード」あたりまでが、私にとっての「仮面ライダー」全盛期です。その時は映画館にも行きましたし、特典をもらいたいがために、弟を引きずっていって「ポスター貰ってきて!」なんてお願いしたこともありました。
柄本:本当に好きだったんだね。僕は家にあったビデオも鑑賞してましたけど、リアルタイムで観ていたのは「クウガ」。これは全話観ましたね。ラストが割と衝撃的なシリーズなんですけど、最終話の一個前の話なんて、雪の上に鮮血がバーっと飛び散るくらい殴り合いをするんですよ。物語の構成も結構意味深だったので、子供ながらに当時しびれたのを覚えていますね。
池松:僕は「クウガ」「アギト」を毎朝夢中になって観ていました。でも残念ながら世代を外してしまっていて、それ以降は見ていませんでした。今回の出演にあたって、原作の漫画を読んだり、初代の作品を観ながら、仮面ライダーについて改めて向き合いました。
そういった作品の知識や物語の背景は、役作りの上でも役に立ったと感じられますか?
池松:勿論です。そもそも今回の企画は初代仮面ライダーを『シン・仮面ライダー』として50年の月日を経て蘇らせることにありました。でも細かい知識に関しては、この現場には、超一級の“仮面ライダー狂ファン”のスタッフが沢山いました。ファンだけでなく、この国の特撮を支えてきたプロたちが半数でした。仮面ライダーについて「○○話のここのシーンがさ~!」みたいな、会話が日常茶飯事です(笑)。僕がこの人たちと台頭に、知識の面で話せるわけがないと早々に諦め、あの時代をどう受け止めて引き継げるのかを考えていきました。
柄本:ポーズひとつをとっても、スタッフさんがそれぞれ大切にしているところが違うから、それも結構大変でしたよね。「肘の位置をもうちょっと下で」みたいな指示が来たと思えば、別の人から「じゃあ今度は、もう少し違うアングルでも撮ってみましょうよ!」といった提案があったり(笑)。決めポーズのシーンになると、皆さんの目が一気にぎらつくので、ドギマギしてしまいました。
池松:中には、仮面ライダーがジャンプするたびに涙ぐむスタッフの方もいました。毎日ヘトヘトになりながらも、「仮面ライダーになってくれてありがとう」というスタッフの度を越した愛情が、何よりの心の支えでした。きっとその人たちに、仮面ライダーにしてもらったんだと思います。
想像するだけでも、かなり特殊な撮影現場な気がします。
池松:そうですね。そんな中でも「仮面ライダー」に関して一番詳しいのは、やっぱり庵野さんでした。本当に凄まじいオタクぶりで、一級のオタクの中の頂点に君臨していました。あそこまで突き詰めると周りはもう何も言えなくなります。(笑)「〇話のバイクの立ち位置と距離感がこうだから…」みたいな話もされていて、噓でしょ…と思うことが日々ありました。
浜辺:バイクの立ち位置まで…?!それは凄い。
独自の世界観で知られる、庵野監督ですが、実際の撮影現場も他の監督とは違うな…!と感じることはありましたか?
柄本:ありました!『エヴァンゲリオン』シリーズをはじめ、あれだけの画を描いてきた方じゃないですか。筋肉ひとつの動かし方から放物線の描き方まで、徹底して“画”を意識しているんだろうなというのが、随所随所で感じました。
浜辺:分かります。私もカメラモニターの前で、歩き方のご指導を受けたことがあったんのですけどが、「重心が上にあるから、もっと下にあるといいんだよね」とアドバイスをいただきました。筋肉の動きとか、恐らく全部把握されているんじゃないか…という思ってしまうレベルで、詳しいんです。
池松:今すごい適当なこと言ったでしょ?!筋肉を全て把握しているとか。(笑)
柄本:何を言ってもいいけど、嘘だけはついちゃいけないよ!(笑)
浜辺:いや、本当にそれくらい監督の知識が豊富だという例えです!(笑)
『仮面ライダー』ならではのアクションシーンの動きにも、庵野監督のこだわりが詰め込まれていそうですね。
池松:アクションシーンに関しては、庵野さんから<物理法則>の話がよく出てきたことが印象に残っています。例えばアクションシーンで魅せるための嘘ってたくさんあるんですね。ワイヤーアクションなんかもそうで、むしろ主流となっています。僕も本来あまり好きではないんですが、庵野さんは人の動作や重さ、引力など、物理の法則に反するものを徹底的に嫌っていました。「それならばCGでやる」という答えになったところも沢山ありました。
浜辺:監督のいうことは、結果として事実に基づいているからので、皆それで納得するんですよね!
そんな庵野監督が描く、脚本の中身も気になります。
柄本:通常の脚本とは少し違った構成かもしれないですね。具体的には、登場人物の会話を中心に描いているというより、庵野監督の中にある<画>が優先なんですよ。物語のシーンがまずあってから、“そこにかかる声”として会話が描写されているというか…。
池松:一体どうやって映像にするのか、イメージすることがこれまでで最も難しかったと思います。
浜辺:私は脚本の中身が、<第1章><第2章>…といった具合に、章ごとに分かれていたのが印象的でした。映画の場合は通常分かれることってないんです。ドラマみたいな構成で面白いなって。
そんな脚本含め、私は“庵野監督の頭の中をもっと知りたい!”と思い、自分のオフ日にも撮影現場に見学に行ったりもしました。
休みの日まで熱心ですね…!
浜辺:庵野監督の作品に出演できることは、俳優としてもとても嬉しいこと。なので、できるだけ現場にいようと。
柄本:その気持ちはわかるな。庵野監督の作品の一部になれるって、もうお祭りだよね。
『シン・仮面ライダー』の役柄についてもお伺いしたいです。作品を鑑賞されたうえで、本作の“ヒーロー像”について、どのように感じていらっしゃいますか?
池松:ヒーローというものの在り方、そのものが問われていますよね。昭和のヒーロー像とはまるで違ったアプローチです。敵を憎むことより人を愛することを選びます。それが本作の主人公にとっての敵に打ち勝つことです。でも実は初代の仮面ライダーとも通じています。仮面ライダーとは仮面を被った人間の話です。この物語は、人の心をもった暴力装置が、人の心をもったまま変身し、誰かを守るまでの話だと捉えています。
柄本:僕も仮面ライダーを演じるうえで、ヒーローというより、“自分とはあまり遠くなく、近しい感じ”で取り組みたいなと考えていました。変に「仮面ライダーだから」「第2号だから」というよりは、少し普通の人というところに落とし込んでいけたらと。そういう意味で、各々におけるヒーロー像というのは、割と地に足の着いた考え方なのではないかと思います。だってみんな、それぞれの正義の名のもとに動いていますからね。
池松:ヒーローも“生身の人間”であるということだと思います。仮面ライダーって、かわいそうな話なんです。望んでもいないのに、オーグメンテーションされてしまい、強い精神力から半分半分になってしまい、自分は人間なのか?それともオーグメントなのか?という葛藤の末、仮面ライダーであり続けることを選ぶという普遍的なテーマをもったストーリーですから。キラキラしたものを表面浮遊させながらも、人間の中の闇や生きること、力について、さまざまな葛藤が描かれています。石ノ森章太郎さんが描かれたオリジナルの「仮面ライダー」を読んであまりにも素晴らしく、心から感動しました。今回やはりそこに立ち返るべきだと思いました。
『シン・仮面ライダー』で描かれる本郷猛は、決して自分がヒーローだとは思っていないんですよね。ただ大切な人や大切にしたいことを守ろうとした、それがたまたま誰かのヒーローになったというだけ。当の本人は、そもそも暴力に全く興味がない。この“戦いたくない主人公”というのは、大きなキーワードでした。