「ロンドン・ナショナル・ポートレートギャラリー所蔵 KING&QUEEN展 ―名画で読み解く 英国王室物語―」が、2020年10月10日(土)から2021年1月11日(月・祝)まで、上野の森美術館にて開催される。
「KING&QUEEN展」は、世界屈指の肖像専門美術館ロンドン・ナショナル・ポートレートギャラリーより、英国テューダー朝から現在のウィンザー朝に至るまで、約500年にわたる5つの王朝の肖像画・肖像写真約90点を紹介する展覧会だ。
会場は、テューダー朝、ステュアート朝、ハノーヴァー朝、その第6代女王・ヴィクトリアの時代、そしてウィンザー朝の5章から構成。肖像画の表現の変化をたどるとともに、モデルとなった人物の運命や人間模様といった“ドラマ”に着目して、英国王室の歴史を紡いできた人物たちを紹介する。
1485年に始まったテューダー朝には、6人の妻を娶ったヘンリー8世や「ヴァージン・クイーン」と称されたエリザベス1世ら、英国史でよく知られる名が連なる。イングランドがヨーロッパ諸国の中で力を持ち始めた時期に当たるテューダー朝の時代は、この国で肖像画制作の始まった時期と一致し、君主の権威を以後数世紀にもわたって伝えることとなったのだ。
華麗な表現と人物にまつわる物語が一体となったひとつの例が、《エリザベス1世》だろう。華やかな襟を身に付けた頭部を頂点に、きらびやかな衣装につつまれた両腕にかけて緩やかに広がる三角形の構造が、安定した構図と堂々とした雰囲気をもたらしている。
背景に目を向ければ、画面左側は明るく、右側は暗く沈んでいる。ほかでもなくこの作品は、スペイン無敵艦隊への勝利を祝って制作されたものであり、左奥にはイングランドの火船が出発する様子が、右奥にはスペイン艦隊が大破している様子がそれぞれ描かれているのだ。
また、エリザベス女王の衣服に数多ときらめく真珠は権力そして純潔を象徴しており、ルネサンス期ヨーロッパにおいて、東方の交易ルートの確立やアメリカ大陸の発見により多量の真珠がもたらされたことが背景にある。威厳に満ちたその姿には、そのように時代のドラマを読み取ることができるのだ。
ほかにも、絶対君主の名を欲しいままにしたヘンリー8世の肖像を、次々に不幸に見舞われた6人の妻の運命とともに紹介している。
1603年にエリザベス1世の死で終焉を迎えたテューダー朝ののち、ステュアート朝が始まる。国王の処刑、英国史上一度だけの共和制、君主制の復活、そして王権に新たな制限を課した「名誉革命」など、政治的激動を経験したこの時代は一方で、チャールズ1世らにより芸術支援がなされ、ルーベンスら大陸の画家たちがイギリスに迎えられたのだった。
この章では、テューダー朝を立ちあげたジェームズ1世の次男・チャールズ1世らを紹介。親しみやすさを感じられる肖像画だけでなく、その処刑場面を描いた版画、そして死後に復活するキリストの姿になぞらえて描いた肖像画などから、そのドラマをたどっている。
また、アン女王の肖像画は、優雅なドレスから腕、そしてローブにかけて弧を描くような構図が優美であるものの、その表情は憂いをほのめかすかのようだ。17回の妊娠をしたものの幼年期を生き延びたのは1人だけで、その子も幼くして亡くなり、1世紀を超えるステュアート朝は幕を閉じることとなった。
1714年、アン女王が世継ぎを残さぬまま亡くなり、危機のなかにあった英国。立憲君主制を守り、プロテスタントの君主に王位を継がせるため、ジェームズ1世の曾孫にあたるドイツ・ハノーファー家のゲオルクを召喚、ハノーヴァー朝が始まった。