咲坂さんご自身はいつごろから漫画家を目指されたのですか。
20代前半の時です。当時は普通に働いていたのですが、満員電車と朝起きるのが嫌で(笑)家で出来る、資格も無くていい仕事という条件で漫画家をはじめました。
あと、20代半ばに、年齢に対して何か区切りのようなイメージを勝手に持っていたんです。その区切りの前に自分を変えたいなという理由もありました。
その理由で漫画家になろうと思うのは凄いですね(笑)元々絵を描くのはお好きだったのですか?
小さい頃は好きでしたが、中学生くらいの時に違う次元のレベルで絵を描くのが上手い子を目の当たりにして、「あ、私違うわ」って思って描かなくなりました。
でも、大人になった時に、上手くはないけど、絵を描くこと自体は嫌いじゃなかったなっていう記憶があったので、今度は自分が少しでも好きなことを仕事に活かしたいと思い、じゃあ漫画を描いてみようかなという気持ちになったんです。
咲坂さんの作品は、漫画でありながら身の回りで起きそうな親近感のあるストーリーが魅力的です。ストーリーを作る上で大切にしていることは何ですか。
どんなストーリーにすれば読んでいる人を作品の世界に上手く導くことが出来るかというのは常に考えています。
読者の方を自分の作品の世界に引き込む上で重要な要素となるのが“リアリティ”だと思っています。読んでくれている人に“あれ、もしかしたら自分にも起こり得る話かも”って少しでも思わせたいというのもありますが、現実味が無いと読者の方を作品の世界に上手に引っ張ってくることが出来ない。
でも、生々しいリアルなことばかり描いても楽しくないので、漫画らしさとのバランスを考えて全体を構成します。漫画らしさとリアリティのせめぎ合いというか、現実と非現実のバランスが釣り合う一番良いポイントを探りながらストーリーを書き上げています。
漫画らしさというのはどういった部分でしょうか?
例えばですけど、具体的に言えば女の子と男の子の偶然の出会いとかですかね。偶然出会い過ぎでしょ、みたいな。(笑)
なるほど(笑)そういった漫画らしさのあるシチュエーションのインスピレーションはどこから得ているのでしょうか。
昔読んだ少女漫画からです。頭で覚えている“少女漫画文法”のようなある程度のストーリー展開やシチュエーションの型を頭で覚えていて、それを基にしますね。それをいかに自分なりに崩すか、といった感じです。
そんな咲坂さんの作品は高校時代を舞台にした作品が多い印象ですが、高校生という青春時代にフォーカスする理由は何ですか。
私自身、中高生が好きだからです。大人になったら感じることの出来ない中高生の感情に魅力を感じています。
例えば、何か傷つくことを言われた時、大人だったら割と寝て起きたら忘れられる内容でも、中高生って何日も引きずりますよね。傷つくことに対しての上手ないなし方や避け方を知らないので、全身で受け止めてしまう。そういう不器用さが何故か好きで、不器用な高校生だからこそ描ける物語を作りたいと思っているんですよね。
中高生の“恋愛”というテーマで物語を作る理由も、そういった思春期ならではの特別な感情に魅力を感じられているからでしょうか?
はい。思春期って小学校くらいまで全然何も思ってなかったのに、突然他の人から見られる自分を意識することってあるじゃないですか。ボーイッシュな女の子が、ある日を境に異性の目を気にしてすごい‟女子感”を出してきたり。
そういう時期の恋愛っていうのは、自分が年を重ねて振り返ってみても凄く興味深くて面白い。そして、そうした中高生を見た時に、私自身の感情がブワッと沸き上がる感覚が好きなので、これからも読者の方と“あの頃”の感覚を共有することができる作品を描けたら良いなと思っています。
最後に、咲坂さんが漫画を通して読者へ伝えたい思いを教えてください。
私の思う方向へ読者の方を導いていこうという意図が作品に一切ないので、とにかく自由に読んで頂いて、その結果シンプルに面白いと思って貰えれば嬉しいです。私自身の伝えたい思いより、作品を読んで頂いた方々それぞれで何かを感じ取って貰えればいいですね。
アニメーション映 画『思い、思われ、ふり、ふられ』
公開日:2020年9月18日(金)
原作:咲坂伊緒『思い、思われ、ふり、ふられ』(集英社『別冊マーガレット』連載)
監督:黒柳トシマサ
出演:島﨑信長、斉藤壮馬、潘めぐみ、鈴木毬花
制作:A-1 Pictures
配給:東宝
© 2020 アニメ映画「思い、思われ、ふり、ふられ」製作委員会 © 咲坂伊緒/集英社