これまで人気漫画の実写化をいくつも手掛けていらっしゃいます。『3月のライオン』を表現する上で大事にしたことを教えて下さい。
ここ最近の作品はガジェット・アクション・未来型の造形など、時間も含めてテレビではできないプラスアルファの価値をいかに加えていくかを考えて撮影していました。
今回は逆に全部削ぐことを意識しています。『3月のライオン』は日常の延長線上にあり、僕らのすぐ隣に生きている人たちの“ありのまま”のドラマです。「削いでいった先に何が見えるか?」をしっかりと描いてみようかなと。だから、いかに棋士を演じる俳優たちを“裸“にしていくことを心がけました。
そんな撮影で苦労した点はありましたか?
題材が「将棋」なので、撮影の際にも我慢強さが求められます。これまでの現場は、血みどろになって走り回ったり泣き叫んだりなど、ある意味エキサイティングなものが多かったのですが、今回は全くの真逆でした。将棋の音しかしない15分間をじっと回しているわけです。スタッフが1人1人、うたた寝していくのが分かるんですよ…(笑)
これまで様々なジャンルの作品を撮られてきたと思うのですが、登場人物に関して共通していることがあれば教えてください。
自分の足で立とうとしている人が好きなので、できる限り自分の映画の登場人物はそういう人を表現してきました。組織や何か違うものに依存するのではなくて、「個人」であるということが価値だと思っています。自分の技術・プロフェッショナリティに依拠して立っているような人。それがプロだと思うし、これまでの作品内容も含めて「プロである」ということにこだわっていると思います。
『3月のライオン』でも後半では、川本家もだんだんと変わってきているんですよ。あかりさんもひなちゃんも、自分の足でどうやって凛として立つかがテーマになっています。
映画の魅力とは何でしょうか
映画の面白い点は、俳優の“目の奥の表情”や“背負っているもの”が伝わってしまうという点ですね。それすら引き受けていく容量が、映画の巨大なフレームにはある。その可能性だけは信じてますし、そこだけは原初的なメディアとして面白いなと思っています。テレビとは違う点だなと。
そんなところに向き合いたくて『3月のライオン』を撮ったということもあります。「将棋」という固いテーマですが、対局をじっと撮っていくと、俳優たちは一手一手の意味を理解しているので、そこに感情が生まれ、目の奥にやっぱり何か出る。それが“映る”ことで映画になる。それを信じられるというのが、映画の面白さですね。
■作品情報
映画『3月のライオン 後編』
公開日:2017年4月22日(土)
監督:大友啓史
出演:神木隆之介、有村架純、倉科カナ、染谷将太、清原果耶、佐々木蔵之介、加瀬亮、伊勢谷友介、前田吟、高橋一生、岩松了、斉木しげる、中村倫也、尾上寛之、奥野瑛太、甲本雅裕、新津ちせ、板谷由夏、伊藤英明、豊川悦司
原作:羽海野チカ「3月のライオン」(白泉社刊・ヤングアニマル連載)