マリークヮント(Mary Quant)を創設したファッションデザイナー、マリー・クワントの展覧会「マリー・クワント展」が、2022年11月26日(土)から2023年1月29日(日)まで、東京・渋谷のBunkamura ザ・ミュージアムにて開催される。

日本初、マリー・クワントの回顧展

1960年代のイギリスで、若者発のストリートカルチャー「スウィンギングロンドン」を牽引したファッションデザイナー、マリー・クワント。ミニスカートやタイツをはじめ、西洋の服飾伝統や階級文化にとらわれない活動的なデザインをストリートに浸透させたクワントは、コスメやインテリアにまで及ぶ幅広いクリエーションばかりでなく、量産化時代の波に乗った世界的なブランド展開、そして自らファッションアイコンとなる広報戦略でも注目を集めた。

「マリー・クワント展」は、日本初となるマリー・クワントの回顧展。ロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(V&A)でも開催された世界巡回展である本展では、約100点の衣服を中心に、小物、写真資料や映像などを展示し、1955〜75年にかけてのクワントのデザイナーとしての業績と、起業家としての足跡を紹介する。

初期のデザインと「バザー」

1930年に生まれたマリー・クワントは、1955年、25歳の若さで若者向けブティック「バザー(BAZAAR)」をロンドンに開店。パリのオートクチュールがいまだファッションの中心にあった時代にあって、クワント自身が着たいと思うアイテムを自らデザインし、販売した「バザー」は、若者から人気を集めることになった。

当時のイギリスでは、若者が国内のカルチャーを牽引する役割を担いつつあった。そこには、高等教育の無償化や賃金の上昇にともなって暮らしが豊かになり、衣服を購入することが楽しみのひとつとなったという背景がある。

マリー・クワントは当時のロンドンのアクティブな雰囲気を反映して、身体の自然なフォルムに添い、スカートの丈感もすっきりとした衣服を手がけた。会場では、クワントによる初期のデザインと、「バザー」にまつわる資料を展示。すっきりとしたフォルムで仕立てたパーティードレス、ワンピースやジャケットなど、人目をひくデザインを好んだ当時の女性を魅了した衣服の数々を目にすることができる。

ステレオタイプに向き合う

マリー・クワントは、旧来のジェンダー観や社会階層にとらわれない、若い女性のためのデザインの発信を試みた。その筆頭がミニスカートだ。クワントは、女学生が身につけた実用的なエプロンドレスをデザインのベースとすることが多く、そこからスカート丈を徐々に膝上まで上げ、大人向けのスタイルを作りあげていった。クワントによる「膝すれすれ」のスタイルが1960年代に初めてメディアに登場して以降、1966年には若い女性の多くが丈の短いスカートを履き、「ミニスカート」という言葉も定着するようになったのだ。

また、クワントは、男性用のスーツや軍服で用いられる素材や要素を、女性のカジュアルウェアに採用した。そこでは、従来は男性的・フォーマルと捉えられてきたテーラリングを、柔らかく、カジュアルなものへとアレンジすることが試みられているといえる。

たとえば、ツイード素材はベストやフレアシルエットのスカートに。クラシカルなストライプのウール素材は、センタークリースを入れたパンツに。女性がパンツを着用するのはカジュアルな場かプライベートな場のみであった時代にあって、クワントはファッションとしてのパンツスタイルを提案したのだった。

こうしたデザインの傾向は、ディテールにおいても見られる。Aラインのドレスには、ミリタリールックを彷彿とさせる肩章やネクタイをプラスしている本展では、上質で手頃な価格の既製服を通して社会のステレオタイプに向き合った、クワントの軌跡にふれることができるだろう。

大量生産時代・新素材への反応

マリー・クワントは、大量生産にいち早く着目したデザイナーであった。クワントのデザインはアメリカでも人気を集め、1960年代には、大手百貨店チェーンや大手衣料メーカーの依頼により既製服のデザインを提供、1デザインあたり数千点の衣服が量産された。また、1963年には、それまでよりも低価格で若々しいライン「ジンジャー・グループ」をローンチしている。会場では、当時のアイテムや資料などから、大量生産時代に反応し、各国へと広まっていったクワントのデザインを紹介している。

クワントはまた、合成繊維などの新素材も積極的に取り入れている。その代表的な例が、PVC(ポリ塩化ビニール)だ。1963年にクワントは、雨に濡れても平気なPVCを綿布にコーティングした素材を用い、「ウェット・コレクション」を発表。PVCならではの光沢が鮮やかな色彩を際立てるケープは注目を集めたものの、くっつきやすく破れやすいという素材の特性から、店頭展開が遅れることになった。

そして、2年後の1965年、イギリスのアリゲーター・レインウェア社とのコラボレーションにより、この弱点を克服。つややかな光沢と防水性を兼ね備えた、カラフルなPVCレインコートを生みだしたのだった。加えて、クワントは同社にナイロンなどの合成素材の利用も促している。会場では、このような素材面におけるクワントの革新性を、豊富な衣服や資料などから紹介している。