池井戸さんは子どもの頃から大の読書好きだったとか。作家になりたいと初めて思ったのはいつ頃ですか?
気づいたときには作家を目指していました。本好きな親父の影響もあって、学生時代もずっと文学一筋。子供の頃から、作家以外の道を考えたことはなかったです。
実際に初めて本格的に長編小説を書いたのは大学時代です。江戸川乱歩賞に応募しようと思って、最初からミステリを書いていました。まあ、その作品は日の目を見ませんでしたけど。
落選時から得た教訓はありましたか?
オリジナリティの大切さ、でしょうか。今から考えると、落選した理由は明確でした。それは、“他の人でも書ける小説を書いていた”から。答えが分かってからは、自分にしか書けないものを書こうと強く意識するようになりましたね。
現在はどういった部分でご自身のオリジナリティが強く出ていると思いますか?
<会社や仕事>をテーマに小説を書いているというのは、大きなオリジナリティと言えるんじゃないでしょうか。読み手の方たちは会社にいる人が多いですが、小説の書き手で一般企業に身を置いたことがある人は意外と少ないように感じます。
僕は銀行勤めをしたことがあるので、会社の雰囲気や息遣いを知っているのはプラスだと思います。僕の小説をビジネス書的に読む人もミステリー小説として読む人もいますが、それも様々な要素が融合しているからではないかと思います。様々な角度から読んでいただければ。
これまでもヒット作を生み出し続けていて、とても順調な小説家人生に思えるのですが、挫折経験もあるのでしょうか?
もちろんあります。人生最大の危機は、会社を辞めた直後かなあ。自分の価値を再評価しましたが、自分には看板もなければ資金もない。あるのは、銀行時代のノウハウだけです。お金の借り方とかね。でもそういう知識であれば誰にも負けないし、書くことも得意でした。
そこで、単行本一冊分の原稿を書いて、ある出版社に持ち込んだんです。でもそこは、銀行員向けの雑誌やビジネス書を出しているところだったので、「一般読者向けだと、うちでは難しい」と断られてしまった。
ところが幸運なことに、その原稿を読んだ方が、「原稿そのものはいいと思うので、他の出版社に聞いてみましょうか」と、わざわざ他社に原稿を送ってくださったんです。ラッキーなことに、その1ヶ月後には出版が決まりました。
なんという好調な作家人生のスタート…!
その時はわからなかったんですが、数年後にその社の編集者から、「実はうちの歴史の中で、持ち込み原稿が本になったのは池井戸さんのあの一冊だけです」と。意外と危ない橋を渡っていたのが分かり、ヒヤリとしました(笑)。
既に小説家として確固たる地位を築かれている池井戸さんですが、今後の夢や目標はありますか?
今後は、舞台がらみの仕事をやってみたいです。ミュージカルの脚本や、その元になる小説を書いてみたい。
以前から脚本家に興味が…?
いいえ、脚本を書いてみたいと思ったのはつい最近です。
きっかけは何だったのですか?
自分の作品が映像化された時に、脚本を自分で書いたらどうだったろうと思ったのがきっかけです。
ミュージカルは好きでよく観に行くのですが、ヒット作は、海外から輸入したものが多いですよね。いつか、日本発の面白いミュージカル作品を作れたらと思っています。
映画『シャイロックの子供たち』
公開日:2023年2月17日(金)
原作:池井戸潤『シャイロックの子供たち』(文春文庫刊)
出演:阿部サダヲ、上戸彩、玉森裕太、柳葉敏郎、杉本哲太、佐藤隆太、柄本明、橋爪功、佐々木蔵之介
監督:本木克英
脚本:ツバキミチオ
主題歌:エレファントカシマシ「yes. I. do」(ユニバーサルシグマ)
<あらすじ>
東京第一銀行・長原支店で起きた、現金紛失事件。お客様係の西木は、同じ支店の愛理と田端とともに、事件の真相を探る。
一見平和に見える支店だが、そこには曲者揃いの銀行員が勢ぞろい。出世コースから外れた支店長・九条、超パワハラ上司の副支店長・古川、エースだが過去の客にたかられている滝野、調査に訪れる嫌われ者の本店検査部・黒田。そして一つの真相にたどり着く西木。それはメガバンクにはびこる、とてつもない不祥事の始まりに過ぎなかった。
©2023 映画「シャイロックの子供たち」製作委員会