映画『ゆきてかへらぬ』が、2025年2月21日(金)より全国公開される。主演の広瀬すず、共演する木戸大聖、岡田将生の3人にインタビュー。
映画『ゆきてかへらぬ』は大正から昭和初期を舞台に、実在した女優の長谷川泰子と詩人の中原中也、文芸評論家の小林秀雄という男女の三角関係を濃密に描いた作品だ。今回は、泰子役の広瀬すず、中也役の木戸大聖、小林役の岡田将生にインタビュー。作品を構築していく過程で感じたことや、役作りに関してじっくり話を伺った。
■あらすじ
まだ芽の出ない女優・長谷川泰子は、のちに不世出の天才詩人と呼ばれることになる青年、中原中也と出会う。どこか虚勢を張り合うふたりは、互いに惹かれ、一緒に暮らしはじめる。その後東京に引っ越したふたりの元を、中也の友人で、のちに日本を代表することになる文芸評論家、小林秀雄が訪ねてくる。偶然ともいえるその出会いが、やがて3人の運命を狂わせていくーー。
映画『ゆきてかへらぬ』の脚本は、約40年前に書き上げられ、多くの監督が映画化を熱望しながらも実現しなかった“幻の脚本”だそう。実際に脚本を読んでみた感想はいかがでしたか?
広瀬:男と女の物語って面白いな、と純粋に思いました。2人が同じ温度になっていって一気に燃え上がる。そういう恋愛の盛り上がり方は大正時代も今も変わらないというところに、なんだかロマンを感じました。
あとは、セリフの言い回しだったり言葉選びがユニークだったのも印象的。言葉がなんだか綺麗にはまっていない感じが新鮮だなって。
綺麗にはまっていない感じ、と言いますと?
広瀬:ちょっとこう、語呂が余っちゃったみたいな。一筋縄ではすっといかない語感やリズム感が、読み進めていくたびにどんどん心地よくなっていく感覚がありました。
岡田:脚本に散りばめられている言葉が、本当に美しかったよね。もし自分が演じなくてもこの映画を絶対にスクリーンで観たい、そう思うほど完成されている脚本でした。
本作では、長谷川泰子、中原中也、小林秀雄の濃密な三角関係が描かれていますね。
広瀬:ただの三角関係じゃない、もうちょっと“歪んだ愛”みたいなものが3人の中にあったような気がします。
私が演じた泰子を、中也と小林という2人の男が取り合うんです。普通であれば恋敵として決別するはずの中也と小林ですが、そうじゃない。2人は憎み合いながらも、文芸家としての才能を認め合っているんですよね。
木戸:中也は、三角関係の嫉妬からできた詩を小林に聞かせているくらいだから、かなり“歪んでいる”よね。恋敵であっても、自分の詩を一番に認めてほしいのはやっぱり小林というところが、複雑だなと思います。
岡田:小林も、泰子を愛することでその奥にいる中也を見ているような節がある。中也は“孤高の天才詩人”だから、やっぱりどこか彼に憧れる部分があったんじゃないかな。
木戸:3人の誰かが欠けたら生きていけないような、不思議な三角関係だなと思います。「神経で繋がる」というセリフがありましたけど、本当にそういう感覚でした。
岡田:そうそう。だから 3人でいる時はとても湿度が高かったです。抜け出してカラッとしたところに行きたいんだけど、そこに行ってしまうと全てを失ってしまう感覚が常にあって。でも一方で、その湿度を快感として求めている自分もいる。こういう感情ってなかなか他の作品では味わえないと思うので、演じていてすごく楽しかったです。
監督は3人の関係性を“自己中のぶつかり合い”とおっしゃっていたそうですね。感情を爆発させる演技が多かったと思うのですが、特に印象に残っているシーンは?
広瀬:そうですね…作中で泰子と中也は何度も喧嘩をするのですが、その中でも肉体的にぶつかり合うシーンはかなり印象に残ってます。憎しみと愛が入り混じって、自分たちでやっていても激しすぎるなって思うくらい、結構バトルしました。本編ではちゃんとカットされていましたけど。(笑)
でも同じ温度になって、体温がガッと上がる感覚って、私すごい好きで。いろんなものを一気に共有できるというか。信頼関係がないとあそこまで激しいシーンはできないことだし、そういうお芝居をできたことは、泰子と中也を演じる同士すごく大きかったなと思います。
役作りに関して、3人で話し合いされることはありましたか?
広瀬: 3人では特に話し合いはしなかったよね。いい意味で個人戦。それが逆に良かった気もすごくするけど。
岡田:ちょっと個が強すぎたって。(笑)
木戸:強すぎましたね。(笑)
岡田:すずとは前に朝ドラで兄妹役をやったことがあり、まだどこかで妹っていう感覚が残っていたから、特に現場でのギャップに驚きました。無意識に泰子がどんどん入っていたのか、本番以外でも語尾がちょっと強くなっていたりして…本当に怖かった。僕の知っているすずがどこかに行ってしまったと思いました。(笑)
広瀬:怖いってずっと言ってたよね。 その節はすみませんでした。(笑)
個人的に役作りの面で苦労した部分はありますか?
木戸:中也にとって自分のストレスを放出する方法が詩だったというところは、すごく時代を感じますし、そこを今の僕が理解していくアプローチは結構大変でした。
あと苦労したのは減量です。中也の生涯を描いていく中で、痩せなくてはならないシーンがあって、急には体を作れないので徐々に減量していました。だけどそんな時に限って、現場にラーメンの差し入れが入ったりするんです。それを広瀬さんが「食べちゃいなよ~」ってすごい誘惑してくる。1番きつかったです。(笑)
減量中のぶつかり稽古も大変でした。シンプルに、広瀬さんの力が強いんですよ。自分もどんどんパワーがなくなっている中で、本当にしっかり吹き飛ばされました。
岡田:怖いって言われたり、強いって言われたり散々だね。
広瀬:ほんともう、最悪ですよ。(笑)
広瀬さん、岡田さんは、役作りの上で何かチャレンジングだったことはありますか?
広瀬:私は、大正時代のセリフ回しや口調に苦労しました。監督からは、「当時の人は1音1音はっきり出して喋るから、今どきのお芝居じゃない感じにして」って言われて。昔の言い回しのセリフを、すごくハキハキと言いました。それがちょっと恥ずかしくて、なかなか慣れなかったです。
岡田:僕は、2人に比べると割と淡々とした役だったので、役作りで苦労した面は少ないかもしれないです。ただ1つ挙げるとしたら、他の役柄よりも読む資料が多かったというのはありますね。自分の頭に入れられる範囲のことはすべて入れようと思って、監督に勧められた本や、小林秀雄さんの本を結構読んでいました。
だけど実際現場に入ってみたら、2人がすごく暴れまくっていたので。(笑) 知識的な部分は1回全部忘れて、心でぶつからなければダメだなと覚悟しました。