シンヤコヅカ(SHINYAKOZUKA) 2023-24年秋冬コレクションが、2023年2月7日(火)に恵比寿・ザ・ガーデンホールにて発表された。
今季のインスピレーション源となったのは、言葉のみで聞き手の脳内のスクリーンに映像を浮かばせる“落語”。とりわけ立川志の輔×春風亭昇太による落語に深く心を動かされたというデザイナーの小塚信哉は、一方で若干のニュアンスの違いや、言い方ひとつでイメージが変わるという落語の側面にも気づくきっかけがあったという。
それは例えるなら、“翻訳できない世界の言葉”。英語で日本語を(もしくはその反対も然り)その言葉が本来意味する通りに翻訳できないように、受け取り手にとっても解釈の仕方は違うはず。そんな未完・不完全の美をできるだけ自分の理想に近づけて補完する──小塚が描く、そんなひとつの在り方をコレクションへと反映させている。
始まりの合図と共に会場を席巻したのは、ドイツ人画家 パウル・クレーの絵画モチーフだ。“色彩と線の魔術師”と呼ばれた彼の作品は、見えないものを視覚化するという哲学も込められていたことから、今季のムードと共通点を見出した小塚がキーモチーフに採用。洋服というキャンバスに、“城”を連想させる抽象的なパウルの作品を自由に描き出した。
例えばジャケットスタイルやオーバーサイズのシャツには、テキスタイルに直接ペインティングしたかのようなパステルカラーのプリントを。一方ウールジャケットには複数のファーやツイードを使用した“パッチワーク”で、アイボリーのレザージャケットにはカラーブロックで作品を表現するなど、高いクラフトマンシップを感じさせる一着へと昇華させている。
こうした視覚的に訴えかけるアプローチはもちろん、今季は“言葉”を使用したユニークなピースもランウェイに。その好例となるのは「もういやだ」というワードを編み込んだ黒のニットウェアだ。一見ネガティブな印象さえもたらすその台詞だが、その語尾にクイっと上がる「↑」の記号を加えたり、丸みの帯びたフォントを採用することで、なんだか“くすり”と笑えてしまう軽快なムードに。
また「GARA GARA」など、特に意味を持たない擬音語をポップなカラーで“主役級”に並べた、遊び心溢れるニットも登場した。
ワークウェアやユニフォームをベースにした洋服を提案しているブランドだが、今シーズンはいつも以上にゆったりとしたフォルムも印象的。ニットは腕をすっぽりと覆うようなアームをもち、ジャケットもかなりのオーバーサイズで仕立てられている。そんな今季のコレクションには、共通して“手紙”を連想させる赤いシーリングスタンプのボタンをアクセントにオン。“洋服を通してメッセージを届けたい。”そんな小塚の想いを乗せるようなディテールが、一見無骨ささえ感じるワークウェアにも、温かみを添えているように感じられた。