ディオール(DIOR)の 2025年夏メンズコレクションが、2024年6月21日(金)、フランスのパリにて発表された。
手仕事に焦点を合わせた、今季のディオール。そこで起点となったのが、南アフリカの陶芸家ヒルトン・ネル(Hylton Nel)であったという。メンズ クリエイティブ ディレクターのキム・ジョーンズとも交友のあるネルは、動物、自然、人々などをモチーフに、柔らかなトーンと豊かな色彩による陶芸作品を手がけてきた。優しい素朴さを感じさせるその作品には、いきいきとした生命感に対する、温かな視線が通底している。
ネルの創作を背景に手がけられた今季のディオールは、それゆえに、メゾンの手仕事と生命感あふれる質感を軸に構成されている。実際、テーラリングやワークテイストのウェアには、鳥や植物をモチーフとした刺繍を施すなど、ドレッシーやカジュアルといった区分にとらわれずに緻密な手仕事が息づいている。
フォルムもまた、陶芸の表現をふまえている。ビジューの装飾を散りばめたステンカラーコート、襟をコントラストカラーで切り替えたワークジャケット、ファブリックの分量を大胆にとったケープ風コートなど、ショルダーに丸みを帯びたボリュームを引き出す一方、テーラリングは端正なセットインショルダーを基調に、すっきりとした縦のラインを強調した。
ネルの陶芸作品に見られる温かみのあるモチーフも、随所に取り入れられている。ショルダーに丸みを帯びたタートルネックニットには、鳥や犬、樹木といったモチーフを、素朴な佇まいで表現。また、青く絵付けした陶芸作品を思わせる花柄のジャケット、鳥などをモチーフとしたブローチも見ることができる。
一方、メゾンのアーカイブもまた、コレクションの源泉のひとつである。たとえば、華やかに装飾を施したスカーフ風の襟は、かつてイヴ・サン=ローランが手がけたデザインに基づくもの。また、コートは、サン=ローランが1958年秋冬のオートクチュールのためにスケッチを残したものの、実現されることのなかったデザインを実現したものであるという。
カラーは、生命感を讃える温かな視線に呼応するようにして、いきいきとしている。ベージュやブラウン、カーキ、ブルーグレー、ブラックといった落ち着きのあるカラーを中心に、ピンクやイエロー、ライトブルー、ライトグリーンなどを交えることで、鮮やかな色彩感を加た。