アンリアレイジ オム(anrealage homme)の2025年春夏コレクションが、2024年9月7日(土)、東京の秩父宮ラグビー場にて発表された。
アンリアレイジが「未来」を志向するのならば、アンリアレイジ オムは「過去」を見つめる──2024年秋冬シーズンにデビューしたメンズブランド「アンリアレイジ オム」の2シーズン目となる今季は、先シーズンにおいても起点とした、デザイナー・森永邦彦の服作りの原風景を基調とはしつつ、それよりも以前へと、視野をいっそう広げてゆく。
そこにはだから、ある種の温かさと、あどけなさが漂っている。ふわりとギャザーを寄せた、ボリュームスリーブのジャケット。携帯ゲーム機などをモチーフに取り入れたニット。柔らかな色味でまとめ、曲線的なヘムラインで仕上げたワークジャケット。オープンカラーを引きあげ、どこかセーラーカラーを彷彿とさせるシャツ──ベーシックなメンズウェアが根底にありながらも、そのムードは素材で、ディテールで、シルエットで、あるいは色で、優しい佇まいに仕上げられているのだ。
また、パールといった細かな装飾を数多と施したウェアは、今季も引き続き見受けられる。パールをふんだんに縫い付けたジャケット、ビーズ刺繍を施したニットなど、かつてアンリアレイジで試みた手法を取り入れることで、機能性と簡潔性に向かいやすいメンズウェアに、装飾性を取り入れているのだ。このように、執拗な手仕事から生まれるウェアは、ある種「祈り」を具現化しているのではなかろうか、という点は、すでに先シーズンのコレクションに寄せて指摘しておいた。
では、それは何に対する「祈り」なのだろう。2020年、デザイナーの森永は、自身の足跡を振り返った著書『AとZ──アンリアレイジのファッション』を刊行している。そこで、自身のデザインに通底する思考として挙げられているのが、「弁証法」だ。これは、ある要素と、これと相反するもうひとつの要素があるとき、両者の矛盾を解消し、より高い次元へと発展することである。哲学用語であるから些か堅苦しいけれども、平たく言えば、対話による解決、とでもいえるだろう。
ベーシックなメンズウェアを温かく、あるいはあどけなく変容することで、ノスタルジックな雰囲気を織りなすアンリアレイジ オムにおいても、デザインの弁証法が作用していると言うことができる。ふと、レイヤード仕様のスリーブに用いたメッシュや、クルーネックのニットなどには、「Friend」という文字とともに、少年と少女が手を取りあっているモチーフがあしらわれていることを思い出す──過去をまなざすアンリアレイジ オムにとって「祈り」とは、「対話」に向けられているのかもしれない。