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『モアナと伝説の海』で読み解く、ディズニー・アニメーションのつくりかた

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1937年の初長編アニメーション映画『白雪姫』から現在に至るまで、50本を超える長編アニメーションを制作している「ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ」。

『白雪姫』『眠れる森の美女』『アラジン』『ライオン・キング』『ズートピア』『アナと雪の女王』。誰からも愛される名作アニメーションの数々は、どのようにして生み出されているのか?今回は、最新作『モアナと伝説の海』を題材に、監督のジョン・マスカー&ロン・クレメンツをはじめとするスタッフへのインタビューを交えながら、ディズニー・アニメーション製作の極意に迫る。

『モアナと伝説の海』

『モアナと伝説の海』は、『リトル・マーメイド』、『アラジン』などの名作アニメーションを手掛けてきた、ロン・クレメンツ&ジョン・マスカーの2人が手がける、「ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ」では56作目となる長編アニメーション作品。数々の伝説が残る島で生まれ育った16歳の少女・モアナを主人公に、彼女が愛する人々と世界を守るための旅路を描くスペクタクル・アドベンチャーだ。

<あらすじ>
ある時、世界を生んだ命の女神テ・フィティの”心”が盗まれ、世界に闇が生まれてしまった。1000年間、海の外に出ることを禁じられた島で育ったモアナは、愛する人々と世界を闇から守るため、父親の反対を押し切り、テ・フィティの“心”を取り戻す冒険に出る決意をする。そんなモアナが旅の途中に出会うのが、風と海の守り神にして伝説の英雄マウイだ。陽気でジョークが大好きな彼が、実はテ・フィティの“心”を盗み、世界に闇をもたらしたのだった。初めは相容れない二人だったが、次第に心が打ち解けていく。しかし旅の途中、マウイの大事な釣り針が傷ついてしまい、自分を責めてしまうモアナ。愛する人々と世界を救うという大きすぎる使命を背負ったモアナはくじけそうになるが、「モアナ、何を迷う?お前の心に従うのだ」というタラおばあちゃんの言葉を胸にきざみ...。

テーマ・脚本・キャラクター、全てが密接に繋がるディズニーの作品作り

企画がスタートしてからどのような流れで製作が進んでいくのか、まずは大まかなプロセスを紹介したいと思う。

大まかな製作プロセス

イメージやコンセプトを共有する「ピッチ」

新たなディズニー・アニメーションのプロジェクトが始まるにあたって、製作チームがまず行うのが「ピッチ」という作業。これは監督がアイディアやイメージなどを提示するプレゼンテーションのことで、ドローイングや写真をメンバーに見せながら、物語のキーとなるコンセプトを形作ってゆく。

物語の舞台をリサーチする「フィールドトリップ」

「ピッチ」が終わると、製作チームは物語の舞台となる地へ「フィールドトリップ」に赴く。これは過去のディズニー・アニメーションでも徹底して行われている「ディズニー・アニメーション・スタジオ」の伝統で、現地の文化の体験や人々との交流を作品に落とし込んで行く作業だ。『モアナと伝説の海』は、タヒチやフィジーといったオセアニアの島々の文化を参考にしており、制作チームは現地を何度も訪問。脚本やキャラクターのビジュアルなどに繰り返し変更を加えていった。

さらに今回の『モアナと伝説の海』では、現地の人々からなる考察チームを編成。時には「ディズニー・アニメーション・スタジオ」にも招き、脚本からキャラクターのビジュアル、性格に至るまで、様々な意見を作品に取り入れている。

アニメーション製作へ

フィールドトリップから戻ると、実際にアニメーションの制作がスタートする。ただし前述の通りフィールドトリップは何度も行われており、戻っては制作、そして再びフィールドトリップへという作業が繰り返される。

例えばフィールドトリップでのリサーチを経てキャラクターの性格に変更があった場合、当然そのキャラクターの顔つきにも変化が加えられるし、また劇中での動きにも修正が必要となる。この地道な作業を繰り返すことで、アニメーションが徐々に形作られていく。

「ディズニー・アニメーション・スタジオ」には、様々な分野にそれぞれプロフェッショナルな技術を持つスタッフが在籍しているが、いくら優秀な人材を揃えていても、それだけで作品は完成しない。彼らの能力を最大限に引き出して、製作チーム全体を取りまとめる役割を担うのが監督の存在だ。

何故「海」がテーマに?監督が作品に秘めた思い

『モアナと伝説の海』で読み解く、ディズニー・アニメーションのつくりかた|写真19
左から)ジョン・マスカー(監督)、オスナット・シューラー(製作)、ロン・クレメンツ(監督)

オセアニアの島々と海が作品のベースとなっている『モアナと伝説の海』だが、そもそもなぜこのテーマが選ばれたのだろう。ディズニー・アニメーション・スタジオを代表するゴールデンコンビである監督のジョン・マスカーとロン・クレメンツ、そして製作のオスナット・シューラーに話を伺った。

(以下、J=ジョン・マスカー、R=ロン・クレメンツ、O=オスナット・シューラー)

海は、感情を持った生き物である

Q:今回の作品では海がもう一人の主人公といえるほど重要なモチーフとなっていますが、なぜそうしたのか教えてください。

J:海を重要なモチーフにしたのは、太平洋諸島にリサーチ旅行に行った結果です。私たちが現地で話をした人々は皆、海があたかも気持ちや感情を持っている生き物であるかのように語っていました。海は彼らの文化にとって非常に大切な存在であり、島々の生活の一部になっているんです。そして、私たちは、アニメーションは海に生命を持たせる理想的な表現手段だと思った。アニメーションほど、海が感情を持ったところを上手く描ける表現手段は無いでしょう?そういうことで、海を主人公にするのは私たちにとって理想的なことだったのです。

O:それと、海はこの作品の「つながり」というテーマにも深く関わっているということもあります。私たちが太平洋諸島を訪れた際、現地の人々は、海のことを“島々をつなぐ存在”として語っていました。私たちは、島は海によって互いに切り離されていると考えがちですが、彼らは逆に考えているんです。島々は海によって分断されて孤立しているのではなく、海は島々をつなぐ大きな存在。そこには、この映画のテーマである「絆」につながるものがあると考えました。

“私たちの文化に飲み込まれてみては”

『モアナと伝説の海』で読み解く、ディズニー・アニメーションのつくりかた|写真1

Q:フィールドトリップの中で、特に本作に影響を与えた出来事を教えてください。

R:モーレア島という島のある老人が、とてもシンプルで意味深いことを言ったのです。“私たちは長年ずっとあなたがたの文化に飲み込まれ続けてきた。今度は、あなたたちが私たちの文化に飲み込まれてみてはいかがですか?と。私たちがフィールドトリップの旅から持ち帰ったものは、ストーリーのアイディアやイメージ、インスピレーションだけではなく、この旅で出会った人々も楽しめるような作品を作りたいという、強い決意でした。あの旅の経験は、予想外のかたちで私たちにイマジネーションを与えてくれたんです。

全ては自然に始まり、自然に帰する。

Q:現地の文化で印象的だったものはありますか?

O:私は、車もあまり走っていないすごく小さな島に行った事が思い出に残っています。私たちは島で歓迎を受けて、ウムミールという食事を御馳走になりました。すべてのものを地中に埋めたてから石を熱して調理するのですが、海からは魚を獲ってきて、木からココナッツを獲ってきて…と、とにかく何をするにも、全てそこにあるものが使われました。どれ1つとして、他の場所で作られた物や工場で作られた物ではなかったのです。

例えば魚釣りに行く時でも、大きな葉っぱを使ってちょっとしたリュックサックを作って、その中に魚を入れます。私たちも、その作り方を教えてもらいましたが、使用済のものはそのまま捨てれば良いというオーガニックなやり方です。

その村には、大量生産された製品がない。プラスティック製のものも全くなく、すべてが自然のものです。現代生活をおくる私たちは、「電話が無かったらどうしたらいいの?」とか「これが無かったらどうしたらいいの?」となったりするけれど、彼らの生活はすべてが自然のものから成っているのです。私は、あり合わせの材料で物を作る能力に本当に感銘を受けて、私たちもそれを学び直す必要があると思いました。

キャラクター作りの秘訣

『モアナと伝説の海』で読み解く、ディズニー・アニメーションのつくりかた|写真28

一目見て覚えられる個性的なキャラクターは、ディズニー・アニメーション最大の魅力の一つ。どんなキャラクターも単なる思いつきだけで完成する訳ではなく、アーティストが描いたコンセプトアートをもとにアイディアを広げていき、監督や脚本家との意見交換を経て徐々に魔法の息が吹き込まれていく。

では、本作で主役のモアナについてはどうだろう。キャラクター・デザインを担当したビル・シュワブとネイサ・ボーヴに、キャラクター作りについて語ってもらった。

(以下、B=ビル・シュワブ、N=ネイサ・ボーヴ)

探求の繰り返しでキャラクターを仕上げていく

『モアナと伝説の海』で読み解く、ディズニー・アニメーションのつくりかた|写真22
主人公モアナのコンセプトアート。監督や脚本家とのディスカッションを重ねてデザインを変更しながら、最終的に3DCGで命を吹き込まれる。

Photos(29枚)

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