俳優・大森南朋―劇場版『ハゲタカ』で第33回目日本アカデミー賞優秀主演男優賞を獲得後、映画『ミュージアム』『秘密 THE TOP SECRET』北野武監督最新作『アウトレイジ 最終章』などヒット作への出演が続いている実力派俳優だ。現在は、産婦人科をテーマにしたTBS系ドラマ『コウノドリ』に出演し、新生児科の部長・今橋貴之役を熱演している。
映画、ドラマと幅広い活躍を見せる大森南朋の最新作となる映画『ビジランテ』が2017年12月9日(土)より全国ロードショー。鈴木浩介・桐谷健太とトリプル主演で描くのは、父の死を機に再会を果たす三兄弟の物語だ。
メガホンをとるのは入江悠監督。映画『22年目の告白ー私が殺人犯ですー』で興業収入3週連続1位を記録した“鬼才”入江監督が、脚本から携わり、久しぶりにオリジナル作品に挑む。
大森は、映画『ビジランテ』の中で、父親の死をきっかけに地元に戻り、弟たちから実家の土地を奪い取る、横暴な長男役を演じる。堕ちきった男の危険な生き様を迫真の演技で体現する。
映画『ビジランテ』の主人公・三兄弟の関係性をどのように捉えていましたか。
僕にも映画監督をしている兄がいるのでわかるのですが、兄弟というのは同じ血が流れていて、一緒に育ってきてしまったから自然と分かり合うところがある。その辺が面白いなと思うのです。
僕たち兄弟はすごい仲が悪かった時代もあって、兄に対しては憎悪しかない時もありました。きっと兄もそれくらいの気持ちだったのだろうな…と思うんですよ。それでも二人とも大人になって、ある時から二人でごはんを食べたりできるようになる。特に好きかって言われると、ベタベタするのも気持ち悪い。どちらかが死んだら葬式に行くんだろうなという切っても切れない関係だと捉えています。
それを愛と呼ぶなら愛かもしれないのですが、『ビジランテ』の三兄弟も、本当はそんなに仲悪くないですし、互いにわかっているっていう空気感を出せば良いなという気持ちを持っていました。
完成作品をご覧になって感じたことは?
僕は現場では、自分が出るシーンしか見ていないので、鈴木さんや桐谷さんが出るシーンを見て、なるほどなって。3人のしがらみだったり、ひっくり返った愛だったり、父親やその土地に対する思いがしっかり描けているな、入江監督はこういうことが撮りたかったんだなと伝わってきました。
監督が“絶望的なうごめき”を表現している作品を多く作っているのも見ていましたし、実は僕は、『ビジランテ』の台本を書いている段階から監督とお話していた。それでも、いまいち本質が伝わって来ていなかった部分もありました。言葉で説明してわかるようなものでもなかったりしますから。
出来上がった作品は、脚本よりもぎゅっと凝縮されていて、入江監督が久しぶりにオリジナルをやる意図が、よりストレートに伝わってきました。
演じられた一郎にように、人物背景が明らかになっていない役を演じる際はどうやって現場に臨むのでしょうか。
身一つでいくしかない。監督が脚本を書いてイメージングしてくれているところに、僕というキャラクター、雰囲気を踏まえてキャスティングしてくれている。なので、あとは受け入れです、極端にい言ってしまえば僕らは下請けですから(笑)。
呼んでくれるなら、身体を使って何かを表現できれば…という気持ちではあるので、”余計なことを作っていかない”でいくのが作戦です。
兄弟役の鈴木さん、桐谷さんとの初共演はいかがでしたか。
二人のことは昔から知っていて、特に桐谷くんは売れていないときから「俳優としてもっと良い作品をやりたい」という熱情を持った人物、俳優としての強さがある人だなと思って見ていました。鈴木さんは舞台で百戦錬磨でやってきている方で、本当に“イチイチ上手い”。
現場ではちゃんと芝居を出来れば良いという一つの目的を3人とも意識していたんじゃないかなと思います。
他の役者さんの“演技が上手い”と思うポイントは何ですか?
俳優があまり俳優を上手いとか下手とかいうのは失礼なので「いいなあ」って思うところは、そういう顔するんだ、そのため方するんだ、そうやって困るんだとか、そういうところところ。人それぞれ違うから、演技を見てなるほどなって思うことが多いですね。
では、大森さんの俳優としての強みは?
得意にしているのはただ立っているだけ。無自覚の強みは表現できているんじゃないかと。
少し偉そうな言い方になってしまいますが、一番演技の邪魔になってしまうのは気負うという感情。カメラの前に立つことの恐怖や緊張といった邪魔なものをなくして、何もなく何気なく歩ける、立っていられる。これが一番、究極の形に近いような気がしていて。時にやる気がないって言われることもある。でも僕はこの“究極の形”に近づけるように演じています。
役者を始めた頃から恐怖や緊張といった感情はなかったのですか?
いえ、カメラの前に立つと緊張はします。むしろ緊張する方なんです。ただそれ(緊張すること)を諦める。
大森さんが俳優になられた頃の話を教えてくれませんか。
僕は役者になろうと思ったのはそんなに早くなくて、25歳の頃。父親に「こういうのもやってみたら」と言われた一言がきっかけ。元々バンドをやっていたので、俳優は人前に出る職業ですし似ている感覚もあるかな?と思いまして。そこからオーディションにいくようになり…という感じです。
お父様もお兄さんも芸能の道を進まれている中、同じ道を進むことに抵抗、葛藤はありませんでしたか。
父親に対しては、俳優というより舞踏家であるという認識の方が強かった。お金も裕福ではなかったですし“今流行りの”二世タレントのような意識はなかったです。
ただ、仕事をし始めて少ししてから、父親との関係性を周りが知るようになって。どこかの舞台に参加した時には、執拗に演出助手にいじめられたときもありました(笑)。
それは辛い。それでも役者を続けてきた理由は?
現場での憧れです。
基本的に芝居の勉強をしないまま現場に入ってしまったので、行く度に上手くできなかったりすることがある。それでも現場へ行くといろんな役をやるはめになる(笑)。
その中で、色々な先輩たちに出会って、間近で先輩たちのかっこ良いシーンにも触れて、遠くのはるか先にいるような存在感も感じて。優しくしてもらうこともありました。監督や共演者、スタッフ全て含めて周りの人に認められたい、受け入れられる人間になりたいっていう気持ちが原動力となっていました。
今もその原動力は変わっていませんか。
20代の頃のように人に認められて乾いたものが潤っていく感覚とは異なってはきていますが、いい作品・いい場面に出会いたいっていう意識は変わっていません。
良い作品の定義とは?
簡単にいうと“うまいこといくやつ”。せっかく携わるなら作品が評価を得る方が嬉しい。もしそれが評価されず今の時代には取り残されても、将来的に語り継がれるものになって欲しい。映画っていうのは、そういう時を超えた醍醐味もあるのでい良い作品と思えるものに出続けていきたいです。
今振り返って、自分にとって良い作品だったなと思うのはありますか?
主演を務めた『殺し屋 -1-』や『ヴァイブレータ』 『ハゲタカ』。少ししか出演していない作品ですと『ゴールデンスランバー』。それと中村義洋監督との作品や、『東京プレイボーイクラブ』の奥田庸介監督のように若い監督とご一緒したものも印象に残っています。
もちろん今回の『ビジランテ』、そして北野組の『アウトレイジ 最終章』も。舞台も面白いのですが、挙げてみるとだいたい映画ばかりですね…。
多くの作品に携わっていく中で見つけた俳優の面白さとは?
僕らの仕事のいいところは、『ビジランテ』なら『ビジランテ』、今出演しているTVドラマ『コウノドリ』なら『コウノドリ』と毎回違うところ。もちろん芝居という意味でやることは同じ。場所が違ったり、周りの人が違ったり、演じるキャラクターが違ったり。毎日毎日通うところが異なるので、その度新たな気持ちになれる、そこは割りと良いのかなと思いっています。
僕はまだ45歳、でも、もう45歳。どちらにもとれます。上を見れば先輩たちが精力的に力強くやられていますし、少し下の若い世代もすごく良い作品を演じていたりする。そういう人たちに対する嫉妬や憧れも、自分のモチベーションを上げているのかもしれません。